色褪せた写真

フィレンツェで留学生活を送っていたころ、付き合いのあったイランの人たちは、1978~79年の革命で祖国を追われた亡命者だった。

彼らが見せてくれた、カスピ海沿岸の緑溢れる田園地帯と雪をたたえた山々、空色のモスクで有名なイスファハン、古代ペルシャ帝国の威光を今に伝える遺跡ペルセポリスはどれも色褪せた写真ではあったが、この国の壮麗で多彩な美しさを知るには十分だった。

このところ、ネットやテレビで炎や煙の立ち上るイランの報道映像を見ていると、私の目にはかつて彼らが大切そうに見せてくれた、それらの古い写真が次々と浮かんでくる。

実物を見たことがなくても、今のような状況下において記憶の中で蘇るあの写真もまた、私には忘れ難い美しい景色の一つなのである。

 

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歩きながら考える』(著:ヤマザキマリ/中公新書ラクレ)

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