『ダルちゃん』(全2巻)
著◎はるな檸檬
小学館 各850円
小学館 各850円
偽りの姿から解き放たれて
資生堂のWeb花椿で2017年10月に連載コミック『ダルちゃん』が始まったとき、衝撃と共感の入り混じった評判が瞬く間にネット上で広がったのをよく覚えている。私も読んで驚いた。
主人公は派遣社員の24歳女子。普通の人に見えるようにがんばって〈擬態〉しているけれど、自分は〈ダルダル星人〉だと思っている。だけどその〈擬態〉とは、日々シャワーを浴びて髪を洗って乾かし、メイクしてストッキングにハイヒールを履き、周りの人に合わせ、ニコニコ求められる役割をこなす、というもの。そんなの私も、というか大半の女性が強いられるまま無意識にやっていることじゃないか!
〈擬態〉ばかり上手になって本当の自分を見失いつつあるダルちゃんを、多くの女性が自分自身のように感じ、この社会で居場所を得るために擬態することがはたして幸せにつながるのかを問い直し、ダルちゃんの行方を見守った。Web連載終了後、オールカラーで出版された本書は発売即重版され、10万部を突破。長く愛される本になりそうだ。これから社会に出る若い女性たちにも読んでもらいたい。
擬態のためにするメイクを〈なんか気持ち悪いから3日に1回やるかやらないか〉と言うダルちゃんを、化粧品を商う会社が許容したのも驚きだった。この物語が女性の生き方をめぐる普遍的な問題を扱っていることが尊重されたのだろう。
ダルちゃんは傷つきながらも初めて女友達に心を開き、彼女に教わった〈詩〉を手がかりにして自分を解き放っていく。詩は、社会や他人とコミットする道具であるだけではなく、自分を確かめて支える言葉になるのだ。資生堂は2017年まで長年にわたり「現代詩花椿賞」を主催した。現在は詩の公募も行っている。