ポストシネマ化の先触れ
2000年代(ゼロ年代)以降にデビューした新海については、初期の新海作品を評する批評的キーワードである「セカイ系」において、その作家的想像力の起源には庵野と岩井を介して「90年代的なもの」が大きく横たわっている。
なるほど、新海の代表作のひとつで、2025年には実写映画化もされた『秒速5センチメートル』(2007年)の一挿話「桜花抄」の時代設定は、まさに阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件が起き、庵野と岩井が相次いで脚光を浴びた95年でもあった【下図】。
『秒速5センチメートル』。栃木県小山駅に掛かっている垂れ幕に「1995 2/10~3/10」と書いてある(写真:『『君の名は。』は日本映画に何をもたらしたのか 庵野秀明・岩井俊二・新海誠から読み解く現代日本映画史』より)
つまり、16年以降に現れた「『君の名は。』以後の日本映画」の内実とは、いわば日本に「映像」の前景化をもたらした「90年代」という「抑圧されたもの」の回帰であったと捉えられるだろう。
この時代に前景化していった多種多様な「映像」とは、21世紀以降に全面化するポストシネマ化の先触れであったわけだ。
