恋愛に縛られない嬉しさ


作者は今橋愛さま。この歌は作者のライフイベント的に、結婚を経て作られたものでございます。作者はどうか分かりませんが、恋愛が意に沿わなかった、むしろ、安全で平穏な生活を好む女性にとっては、結婚はその恋愛レースからぬけることができますな。なるほど、いつも誰もが恋愛にドキドキワクワクしたいかと思ったら大きな間違い! 今橋さまのように、恋愛に縛られない生活に嬉しさを感じる女性は多くいらっしゃりそうです。一人の人生を選ぶのも、結婚して穏やかな人生を選ぶのも、心身不安定になりがちな恋愛ライフから降りるのに、いい選択かと思います。


今橋愛さまは『短歌研究』創刊800号 記念臨時増刊「うたう」でデビュー。改行や一字空け、またひらがなの多い作風が、独特の浮遊感と柔らかさをうんでいます。

そこにいるときすこしさみしそうなとき
めをつむる。あまい。そこにいたとき。

第一歌集『O脚の膝』から。理屈でわかるというより、柔らかなパステルトーンの霧がこちらに向かってふっと流れてくるような、そんな読後感が特徴です。この歌は、そこにいた相手がさみしそうで、そのことを思い出すとき、心が甘く感じられたということでしょうか。と言ってもどこまで行っても野暮な解説で、この独特の浮遊感を味わうべきなのかもしれません。

そんな今橋さまのわたくしめの大好きな連作は「早稲田文学増刊 女性号」の「そして」です。責任編集を小説家の川上未映子さまがなされ、この号は大きな反響を呼びました。
作品に記されていますが、今橋さまはこのとき40歳。結婚し、子供をもうけ、感覚だけではなく、自分を客観視しながら気持ちよく投げたボールのような、爽快感あふれる歌が見どころです。