シェアハウスでの暮らし
ある60代の入居者は、コロナ禍に収入が減ったことで転居の必要に迫られた。家賃の安い住宅に住み替えようと地元の不動産会社に問い合わせをしたが、「その年齢では仲介できる物件がない」と断られた。その後も、複数の不動産会社に足を運んだが、対応はどこも同じだった。いよいよ切羽詰まり、単身者向けのシェアハウスならと期待を込めたが、「50歳前半までしか受け入れていない」とにべも無かった。
不動産会社からは、サ高住や住宅型の有料老人ホームを勧められたが、いずれも高額すぎて手が出なかった。なによりまだ介護が不要で、「施設」という言葉にも抵抗を感じた。自分の力で住宅に住み続けるにはどうしたらいいのか。郊外や地方へいけば家賃は安く、入居できる物件もあるかもしれないが、知らない土地で暮らしていけるか不安だった。
「自分で言うのもなんだけど、最近までちゃんと働いていて、足腰もしっかりして健康体なのに、なんで借りられないのか。なんで私が、という思いしかなかった」と、しばし現実が受け入れられなかった。
いよいよこのままでは行き場がないと思ったとき、ネット上で「自立した生活ができる60歳以上の女性対象」というフレーズを偶然目にし、すぐさま入居の申し込みを行った。面談時、担当者からの「階段の上り下りができる間はずっといてください。年齢制限はありません」という言葉が入居の決め手となった。
シェアハウスでの暮らしについては、「やっぱり家に帰ったときに電気がついているっていうのはいいですよね。ただいまとか、おかえりとか。1人だと言わないじゃないですか。それに一人暮らしだと、鍵一つ失くしても大事ですから」と満足そうに話した。
食事の準備は各自で行い、共有スペースの掃除やごみ捨て、花の水やりなど、日々のルーティンは、当番制で平等に分担する。管理会社によれば、入居者同士のつかず離れずの関係が楽で、ゆるやかな集住が孤立を解消してくれると入居者からの評価は高い。
※本稿は、『単身高齢者のリアル ――老後ひとりの住宅問題』(筑摩書房)の一部を再編集したものです。
『単身高齢者のリアル ――老後ひとりの住宅問題』(著:葛西リサ/筑摩書房)
貯蓄があっても賃貸に入居できない? 持ち家でも安泰とは言えない?
老後ひとりの「最期の居場所」をみつけるのは、こんなにも難しい。
孤独死予備軍が急増する今、単身高齢者の住まいを保障する社会の仕組みを考える。




