赤道通過の時に衝撃写真を撮影しようとして……

私が31歳の時だった。勤めている会社の編集長が「北半球と南半球では水洗トイレの渦が逆になると言う人がいるけど本当かな?赤道を船や飛行機が通過する時は、水洗トイレで渦が逆転する瞬間を見られるのかな?」と、私に聞いた。

会社の仕事とは全く関係がないのだが、好奇心が止められず、「有給休暇をください。その劇的瞬間を写真撮影してきます」と、編集長に休みの許可をもらった。

とにかく赤道を通過しなくてはならない。格安ツアーを探した。ニュージーランドの南島がメインの観光で、ゴールデンウィーク前の7日間のツアーを見つけた。

こういう異色の目的の旅に付き合うのは、長年の友人のユミちゃんしかいない。

当時は現在のようにスマホやカメラで気軽に動画が撮れる時代ではなかった。

ユミちゃんは、「赤道通過の時はトイレの渦が逆転するから、連続してシャッターを押さないとね」と言ったが、私はその時、トイレに長居をしている人がいないことを祈った。

団体ツアーは私たちの他に30代の男性1人と70代の男性1人以外の12人は全て新婚さんだった。ニュージーランド航空の機内も日本人の新婚さんばかり。ユミちゃんも私も結婚に興味がなかったので、うらやましいとは全く思わなかった。

まもなく赤道を通過するという日本語のアナウンスがあり、私はカメラを持って緊張してトイレに入った。

そして、便器の前に立ち、水を流した。水は渦を巻かず、一気にドドッと便器の排水口の穴に落ちた。ストレートに落とし込まれる水の姿を見て、ショックだった。

席に戻ると、ユミちゃんがキラキラと目を輝かせて、「どうだった?」と聞いた。そのままを伝えると、「空を飛ぶ飛行機だからね。空港のトイレなら渦を巻くよ」と予想した。
 

観光客の誰もが「テカポ湖」だと分かっているのに、指差し確認をする若きしろぼしマーサさん(1984年4月、ユミちゃん撮影)