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恋愛リアリティー番組『テラスハウス』に出演していたプロレスラーの木村花さんを死に追いやったとして、SNSの誹謗中傷がようやく社会問題視され始めました。一方、ジャーナリストの伊藤詩織さんは、ツイッターで中傷を受けたとして相手を提訴しています。自らの書き込みで他人を傷つけないために、知っておきたいことは。問題に詳しい社会心理学者・新潟青陵大学大学院教授の碓井真史さんに聞きました。(構成=樋田敦子)

批判と中傷の差は

『テラスハウス』に出演していたプロレスラーの木村花さんが、ネット上で激しい誹謗中傷を受け、遺書を残して亡くなりました。また、作家でタレントの室井佑月さんが誤情報を信じてツイートしたことに対し、室井さんを誹謗中傷する人が現れました。「室井があんなにひどいことを言ったのだから、俺が室井の悪口を言って何が悪い」という発想です。

確かに私たちの社会では、表現の自由が保障されていますが、発言の内容によっては、名誉毀損、侮辱などの罪に問われる可能性もあります。最近報道されている誹謗中傷は、どこまで許されるものなのでしょうか。

まず、批判というのは、その人がやったこと、言ったことに関して、良い悪い、の判断をすることです。「この料理研究家のレシピはわかりにくい」と指摘するのが批判。

一方、誹謗は人格否定や個人攻撃をすることを指します。「あんなに難しいレシピを出す料理研究家は番組をやめたほうがいい」など、「他人への悪口」です。さらに中傷になると、もっと邪推して、「あんな表情をするとは、きっときつい性格だろう」などと、証拠もないのに心の中でイメージを膨らませてしまいます。

もっとも、いずれも頭の中で思うのは自由で、もし口に出しても家庭や居酒屋での会話なら許されるでしょう。しかし、SNSで他人の名誉を汚したり、口汚く罵ったりする書き込みは許されることではなく、今回のように相手を追い詰めて、社会問題にまで発展してしまうこともあるのです。

手紙なら、ペンと便箋を用意し、書いたものを見直して投函するなど、相手に届けるまでに時間があります。格段に便利な電子メールも、タイトルをつけて、ある程度の文章量を書かなければ成立しません。こうしたツールなら怒りに任せて書き始めても、内容を考えている間に、強烈な感情は弱まっていったはずです。

ところがラインなどのSNSは、タイトルをつける必要もなく、一瞬で送れてしまうシステムです。さらにツイッターになると匿名の世界で、負の感情が湧いたとき、「バカ」「死ね」などの言葉を、そのまま書いてボタン一つで一瞬にしてネット上に拡散させてしまう。こういう環境では、言葉が荒れやすいのです。誹謗中傷が増える背景には、こういうことも関係しているのかもしれません。