母のふたつの握り拳が小刻みに震えて
だが結婚式の前日、実家で明日の準備をしていると介護事業所から電話がかかってきたのだ。
「明日の訪問介護の延長はできません」
あまりに唐突なことで、母は「明日なんですよ? ヘルパーさんとは話がついています」と一生懸命に電話口で説明していた。しかし先方は、「できないものはできません」の一点張りのようだった。
こちらの事情を理解しようとするでもなく、延長できる方法を教えてくれるでもない。そんな状況であることは母の様子でわかった。何とかならないかと食い下がると、相手はため息まじりにこう言ったという。
「そんなに大事なおじいさんなら、連れて行けばいいでしょう」
母は私が聞いたことのないような低い声で、「それができないから頼んでいるんです」と唸るように言って電話を切った。結婚式の前夜に「認知症の高齢者を連れて行きたい」と姪たちに相談できるはずもないし、車いすの手配や新幹線の席の確保だってできる保証はないだろう。
そもそも祖父には、結婚式に出席できるような体力はない。そんなことは誰にだってわかるはずなのに、まるで私たちが一方的に無理難題を押し付けたかのような介護事業所のスタッフの言い分に、両親も私も言葉を失ってしまった。