そう思ったとき、昔、美輪明宏さんに言われたことを思い出す。

「女性はね。女性であることにあぐらをかいて、努力を怠っているのですよ」

今さらながら、その言葉がにわかに胸に突き刺さってきた。あえて何もせずとも、ただ立っているだけで女性らしさを醸し出すことができると思ったら大間違い。普段の心がけや態度、発声、姿勢、仕草などをしっかり意識して過ごさなければ、誰も女性とは認めてくれなくなりますぞと警鐘を鳴らされたのである。そう教えられたとき、私はまだB.C.更年期だった。思い返せばその頃から、周辺の殿方の私の扱い方が少々雑になってきたと感じないでもなかったが、でも、さほど気にしていなかった。だから美輪さんのお言葉に、「なるほどね」とは思ったものの、危機感を抱くほどのショックには至っていなかった。しかし、この歳になるとまことにそうだと合点する。

身体そのもののホルモンを失った今こそ、意識して努力をしないかぎり、本物のおじいさんになってしまいそうな予感がする。

よし、美意識を高めるぞ!

と、そんなシュプレヒコールを上げながら、私はいったいどういう努力をしているというのか。

コロナ騒動以来、口紅からすっかり遠ざかり、バッグに入れ忘れることも多々。でも慌てず騒がず、誰も気づかないだろうと開き直る。そもそも化粧全般をなるべく控え、いや、サボり、近所の買い物、病院通いはだいたいスッピン。そういうときに限って道端で知り合いに出くわしたりするが、「ごめんなさい、スッピンで」と謝れば許されると信じている。

先日、テレビ局に着いたら、「アガワさん、頭のうしろ、寝癖がすごいですよ」と男性スタッフに笑われた。が、私は太く低い声で言い返した。

「いいのよ。どうせメイクさんにきれいにしてもらうから」

こういう態度だから、おじいさんへの道をさらに進むことになるのだろう。おじいさんだってもう少し身だしなみに気をつけていますよ、と反論されそうではありますが。

【関連記事】
阿川佐和子「ちょっと真面目に不真面目に」
阿川佐和子「アンチ・デジタル旅」
阿川佐和子「高齢の旅」

最新刊『吾も老の花』が好評発売中

頭も身体も若い頃のようには動いてくれない。でも、それでもいい。
老(おい)を笑えば福来る。
チャーミングなばあさん街道をテクテクとゆくアガワの、古稀超え・等身大エッセイ!

老いを悲観せず、おもしろがる「老人力」は、男性にはあるが女性にはあまりないのでは、と故・赤瀬川源平氏は言った。そんなはずはないのでは、と自らも高齢者の仲間入りした阿川佐和子。たるんでいく身体、落ちていく体力、衰える記憶力――日々やってくる「老い」を慈しみ、笑い、今日も女の老人力を探しにいく。
「冥途の土産にこの本、持っていってくださいな。」

◎季刊誌『kotoba』の人気連載「吾も老の花」全20回を収録!
◎ジェネレーションギャップ、友人付き合い、体力の衰え、体形変化、時代の流れへの適応など、等身大の「老い」話がたくさん
◎読後感爽快! ポジティブ・シニアエッセイ!
◎『CREA Traveller』での人気の旅連載からの抜粋も

【本書の内容】
女の老人力/羞恥徹底/叩く女/友情の果て/呼称疑念/風呂場の矜持/気づかない力/スッピン願望/従順なる夫/ジェンダーの壁/デジタル徘徊/LOW化現象/回顧の楽しみ/終の住処幻想 ほか


人気連載エッセイの書籍化『老人初心者の青春』発売中!

古稀を迎えても好奇心は衰え知らず。若いうちが花? いえいえ、我が青春は、今なり! アガワさんの人気エッセイ、シリーズ第4弾。