MARUU=イラスト
阿川佐和子さんが『婦人公論』で好評連載中のエッセイ「見上げれば三日月」。前回から続くイタリア高齢珍道中。今回の旅のいたるところにデジタルの難関が待ち受けていたそうで――。
※本記事は『婦人公論』2026年2月号に掲載されたものです

夫婦でイタリアへ旅したことは前回書いた。なにしろ老夫婦である。いたるところに難関が待ち受けていた。デジタル化されているのは日本だけではない。むしろイタリアのほうがデジタル環境は進んでいた印象が強い。

ローマにて、コロッセオ見学に三時間あまりを費やしたのち、ほとほと疲れたので、ホテルへの帰り道、「そうだ、地下鉄に乗ろう!」と思い立ち、最寄りの駅へ向かった。さて切符はどこで買うんだ? 窓口も券売機もない。オロオロし、思い切って改札口横に立っていた駅員さんらしき若者に英語で聞く。

「切符はどこで……?」

すると若い駅員さん、「クレジットカードを持っているか?」と問うので財布からカードを取り出して見せると、手元の改札機に当てろという。

「え、クレジットカードを? 直接?」

Suicaをタッチするがごとく言う通りにしてみると、改札の扉がパッと開いた。

なんてこった。切符を買う必要はないのか。

余談ではありますが、この話を帰国後に人に話したら、「あ、東京でもそういう改札口、もうありますよ」。

なんてこった。知らなかった。

さらに余談ですが、思えば昔、アメリカはニューヨークのマンハッタンで「イータリー」というイタリア食料品専門店に行き、その規模と豊富な品揃えに驚愕し、日本に戻って弟に、「こういう店が日本にもあればいいのにね」とぼやいたら、「日本にもうあるよ」と言われてがっかりしたのを思い出した。海外で知ったことを得意満面に披露したあげく、国内事情に疎かったと思い知ることは、年を重ねるにつれ増えていく。