女友達と二人でスペインのマジョルカ島へ行き、ジョルジュ・サンドとショパンが住んでいた家を訪れるつもりが道に迷い、ふと見渡した海岸が魅力的だったので、「もうここでいっか」とそばにあった雑貨屋で水着を買い、しばし砂浜で日光浴をし、近くのレストランで昼ご飯を食べて帰ってきたことがある。その海岸の名前すら覚えていないけれど、そのとき食した魚介のスープの味は今でも忘れられない。

そういえば、今回のイタリア旅で一泊だけ立ち寄ったのが、フィレンツェから列車で二時間半ほど西に行ったチンクエ・テッレという海沿いの景勝地である。五つの村の家々が岸壁に張りつくかのごとく立ち並ぶ景色がそれは美しく、世界遺産にも登録されている。その一つの村、リオマッジョーレのホテルには事前にネットで予約をしてあった。駅を降り、くねくね続く石畳の道をしばらく歩き、トンネルを抜けると、そこは雪国ではなく、穏やかな海の景色が広がっていた。カモメの鳴く声、波打ち寄せる音、太陽の光に反射して輝くカラフルな町並み。と、感動するまもなくホテル探しだ。アパートメントホテルのせいか、看板など出ていない。どれだどれだ? たっぷり陽に焼けたレンタルカヤック店の若者に訊ねると、

「ああ、ウチの隣だよ」

四階建ての細長い黄色い建物を指さした。ようやくホテルのが現れて、予約確認を取った上、「ここの最上階です。最高の部屋だよ。階段でどうぞ」。

促された階段は、一段が三十センチはあろうかと思う急なものである。キャリーバッグを抱え、老夫婦、一段ずつ、上がる。よっこらしょ、えっさかほい。二階あたりで精根尽き果てる。が、先はまだ長い。