実は100万円プレーヤーはいません
現在この事務所に登録しているシニアモデルは400人。
「その中に年間に100万円とか200万円稼ぐ人はいますか?」
と質問すると、
「え~っと……そうですねえ……。100%いないとは言い切れません。まあ、一獲千金を狙うよりも地道に仕事をこなしていただければと。何歳になってもできる仕事ですし……」
佐山氏の答えは歯切れが悪い。というか、しどろもどろに陥った。おそらくこうした質問を受けたことがなく、答える言葉がすぐに見つからなかったのだろう。
察するにシニアにせよヤングにせよ、芸能界やモデルの世界を目指す人は夢を見たいという欲求が強いため、現実の細部をチェックしようという意識が希薄で、私のような質問をする人がいないのだろう。佐山氏の苦渋の表情は、
「実は100万円プレーヤーはいません」
と白状しているようなものである。
この会社にせよ同業他社にせよ、モデル事務所は人をその気にさせて所属させ、入所費用やレッスン料で稼いでいるのだろう。気になったので芸能界に詳しい友人に聞いたら、
「シニアモデルの入所料の相場は30万円。これにオプションのレッスン料がプラスされる」
とのことだった。
30万円以上のカネをつぎこんでも売れっ子モデルになれる保証はない。つまりは自己満足の世界。私と同年代の男性の中には明るい未来を夢見て退職金を切り崩す人もいるに違いない。「俺はモデルだ」「CMタレントをやっている」と友人に自慢したい人にとって30万円は安いのかもしれないが、うちの妻が聞いたら「30万円をドブに捨てるだけ」と猛反対するに違いない。
というわけで、あれこれと意地悪な質問をしたせいか、私に「合格」の通知は届かなかった。「とてもお上手。声も魅力的です。本当に初めてですか?」という佐山氏の賞賛の声が今も耳の奥に残っている。
※本稿は、『年金だけじゃ生活できない!「定年バイト」奮戦記』(秀英書房)の一部を再編集したものです。
『年金だけじゃ生活できない!「定年バイト」奮戦記』(著:林山翔平/秀英書房)
現在65歳の著者が数々のバイトの面接に潜入取材を敢行!
60代以上の年金世代に捧ぐ、怒り、ユーモアと皮肉を交えて綴るエンターテインメント・ドキュメンタリーエッセイ。




