「全国どこにいても、同じ授業を聞くことができるし、わからないところがあったら、そこだけ先生を選んで復習することも可能。そんな時代の到来が、コロナによって早まったと思うのです。」(佐藤さん)

教育のIT化、リモート化は、大きな流れ

佐藤 ゆとり教育は、それまでの「詰め込み教育」のアンチテーゼとして導入されたものでしたが、今現在私たちは、新型コロナウイルス感染症という外的要因によって「教育改革」を迫られる状況にあります。一時は、学校の9月入学も現実味を帯びました。

池上 個人的には、9月入学に賛成です。留学がしやすい、留学生を受け入れやすい、といった国際化の話もあるのですが、それ以前の問題として国内事情があると思うのです。4月入学だと、入試は真冬になりますから、大雪で交通機関が乱れるとか、それこそインフルエンザの影響を受けるなどのアクシデントが避けられません。入学したらしたで、1ヵ月たたないうちに大型連休が始まって、新入生が「五月病」になったりするわけです。9月入学なら、年末まで中断なしに学校生活を送ることができます。

佐藤 私も同意見です。国際標準に合わせるメリットは、留学に有利というだけではありません。例えば私が教えている同志社大学は、ドイツのテュービンゲン大学の構内に、EUキャンパスを設けています。その拠点を活用して、日本にいながら海外の大学の講義をリモート(遠隔)で受講し、単位を与えるような仕組みを作ろうとしているわけです。

池上 海外の学生たちと同じ授業を受けて、切磋琢磨する。いいですね。

佐藤 ただ、それをやろうとしたときに、彼らと学期がズレているというのは、やはり好ましくないのです。今後、そういう形の国際化がどんどん進むはずで、その点からも9月入学への転換というのを真剣に検討すべきだと思います。

池上 今「リモート」という言葉が出ましたが、教育現場でも新型コロナ対応のキーワードは、まさにそれでした。学校での授業が再開される「ポストコロナ」においても、教育のIT化、リモート化は、大きな流れとして進んでいくはずです。

佐藤 コロナ以前から、ハーバードにしろオックスフォードにしろ、行った授業は、ネットにアップされているものがかなりあります。目の玉が飛び出るほどの学費を払わずとも、受講することはできるのです。

池上 「MOOC(ムーク)」(Massive Open Online Course)と呼ばれる大規模公開オンライン講座ですね。欧米に比べて遅れていますが、日本版もあります。

佐藤 それが当たり前になり、やがて高校、中学、小学校にまで「降りて」くるのではないでしょうか。全国どこにいても、同じ授業を聞くことができるし、わからないところがあったら、そこだけ先生を選んで復習することも可能。そんな時代の到来が、コロナによって早まったと思うのです。