「聖路加は、新型コロナと向き合い、病院としての使命を果たそうと、院長以下、病院のスタッフが早い段階から新型コロナ感染者を受け入れることを決めました」(撮影:本社写真部)
緊急事態宣言は解除されたものの、新型コロナウイルスの感染者が日々増えている。第二波、第三波は来るのか、ワクチンはできるのか、いまだ予断を許さない。その治療と予防の最前線で、院内感染を防ぐ司令塔として働く坂本史衣さん。未知のウイルスと最前線で向き合う現状について聞いた(構成=樋田敦子 撮影=本社写真部)

※本インタビューは5月12日に収録しました

看護師を一度やめて感染予防の仕事に

普段は聖路加国際病院の感染予防の専門家という裏方である私の仕事が、ドキュメンタリー番組『情熱大陸』で放送されたのが4月19日のことです。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の院内感染を防ぐだけではなく、最前線で治療に当たる医師や看護師たちとともに、連携して病気に立ち向かう様子を取材していただきました。

撮影クルーが来たのは、東京都内の感染者数がぐっと増加した3月末と、緊急事態宣言が発令された4月7日。多数の患者さんが来院し、医療従事者用のマスク、ガウンなどの防護具も少なくなりつつあった時期です。感染管理室にいる私も対応に追われ、院内のゾーン分けや動線の確保、病院スタッフのメンタルケアなど、夜遅くまで残業が続き、忙しさもピークに達していました。

もともと聖路加の看護師だった私ですが、実は看護師の仕事が合わずに一度やめて、医者でも看護師でもない、感染予防の仕事で戻ってきたのです。通常は、病院で発生している病原体による感染がなぜ起こっているかを調査し、目標値を立てて減らしていくというのが私の仕事。

ガイドラインや文献から得られる新しい知見について情報収集しながら、臨床、事務系の部門など、すべての部署と連携して感染予防の方法を検討し、導入。そして結果を分析し、感染症の発生率が下がっているかを検証・評価するという流れです。

仕事の対象は多岐にわたっています。治療の必要上、カテーテルや人工呼吸器などを体に入れることで細菌が侵入して起こる感染症や、インフルエンザ、結核、ノロウイルスなど、ヒトからヒトへと広がる感染症。さらに、抗生物質の不適切な使用などで薬剤耐性菌ができて薬が効かなくなることがあるのですが、その菌が蔓延して起こる感染症……。それらを食い止めるための方法を考える業務なので、患者さんに寄り添い、直接何かをするというわけではありません。

そんな日常に突然飛び込んできたのが、新型コロナの流行でした。2019年末に中国・武漢で謎の肺炎が発生したという一報が入り、感染者数は予測できないけれど必ず日本にも上陸するので、準備はしておこうと思いました。

特に当院は都心にある急性期病院のため、地方や外国から来る観光客、大使館関係者、海外で感染症にかかった帰国者など、さまざまな患者さんが来院します。何となく体調が悪いと受診した観光客が、実は新型コロナ感染者だったというケースもありうる、と……。

新しいウイルスなので、どういう経過をたどるのか、最初は不明でした。しかし今回中国は、以前のSARSの流行のときと違って、早い段階で論文をどんどん発表し、ウイルスも特定し、かなりの情報が入ってきた。ただしヒトからヒトに感染するウイルスですから、院内感染をコントロールするのが難しい可能性があった。防ぐにはどうしたらいいのか、情報収集していたのです。