《ゴーゴー・ペンギン》ゴーゴー・ペンギン

これぞ21世紀の希望、そして不安

イギリス・マンチェスターで2009年に結成された、独自の抒情性をもつピアノ・トリオ、ゴーゴー・ペンギン。16年に世界デビューを飾り、本作《ゴーゴー・ペンギン》が第3作になる。自らのバンド名をタイトルに冠し、改めてトリオ・カラーを鮮明に打ち出した。ジャズを基盤としながらも、ミニマルミュージックのようにピアノの反復を多用し、音を増幅したウッドベースに、人力での超絶ドラムスとの3人で、21世紀ならではの希望と、漠とした不安を描いていく。

ピアノのクリス・イリングワースいわく、「若者からお爺さんまで、皆に踊ってもらいたい」。このリズムで踊るのかと、筆者は突っ込みたくなるが、既存の「起承転結」というクライマックスのあり方を変容させ、聞き手を魅了する。

ゴーゴー・ペンギン
ゴーゴー・ペンギン
ユニバーサル 2860円

****

《TOKU イン・パリ》TOKU

日本を代表するシンガー2人の新作をここからは紹介したい。まず1枚目は、フリューゲルホーン奏者/ジャズ・シンガーのTOKU、3年ぶりのオリジナル・ニュー・アルバム《TOKU イン・パリ》だ。近年、ニューヨークとパリで定期的に活動を続けてきた彼の一つの集大成であり、これまででベストなジャズ・アルバムに仕上がった。どういった要素が素晴らしいかというと、肩の力が抜けていること、そしてパリらしいジャズの粋な雰囲気が表現されている点だ。ジョヴァンニ・ミラバッシを中心としたパリのTOKUバンドが、彼の歌と演奏に、恋の色彩と、どこか楽しげな躍動を加えていく。彼自身の作曲も佳曲が揃い、さまざまなパリを描写。ミシェル・ルグランが作曲した映画『シェルブールの雨傘』の主題歌、〈アイ・ウィル・ウェイト・フォー・ユー〉では、サラ・ランクマンと優しくデュエットした。ボレロで仕上げた〈スティル・イン・ラヴ・ウィズ・ユー〉での自然なファルセットも見事で、恋の喜びを軽妙に表現する。「パリはぼくにとって、理屈なしに居心地が良い場所です。今作ではリラックスして吹き歌うことができましたが、パリという場所がそれをより自然にさせてくれたのだと思います」とは本人の弁。初のヨーロッパ発売も果たし、今後のワールドワイドな活躍に期待したい。

TOKU イン・パリ
TOKU
ソニー 3000円

****

 

《ロッキン・イット・ジャズ・オーケストラ・ライヴ・イン・大阪〜コーナーストーンズ 7〜》佐藤竹善 

1988年のデビュー以来、シングライクトーキングのヴォーカルとして活躍を続ける佐藤竹善は、歌の上手さで高い評価を得てきた。その彼が、エリック・ミヤシロをアレンジャーに迎えたビッグバンド作品を発表。2019年12月のコンサートの模様をレコーディングしたライヴ盤2枚組、《ロッキン・イット・ジャズ・オーケストラ・ライヴ・イン・大阪》がそれだ。

まず竹善の正確なピッチ、英語の発音と歌のアクセントの巧みさに舌を巻く。その技術をもった上で、ビッグバンドという大編成を前に、バンドの音圧に負けない歌を歌いつぐ彼がすごい。しかも、彼自身の選曲により音楽的視野が極めて広い。オリジナルの〈ヴィジョン〉、スティングの〈ロクサーヌ〉、また、ジャズの定番曲ではユニークなアレンジで魅力を表現。〈ラヴァー・カムバック・トゥ・ミー〉では、中川英二郎らの素晴らしいトロンボーン・セクションが、竹善の歌に躍動と迫力を加味した。ビッグバンドで時代を超えた名曲を歌うという、竹善の使命感がきらめく本作。彼が語った。「とても楽しいレコーディングでした。生の音なのにあれほどの“圧”を感じられるのは、シンガーとして至福でした」。その至福感が、アルバムからも十二分に伝わってくる。

ロッキン・イット・ジャズ・オーケストラ・ライヴ・イン・大阪〜コーナーストーンズ 7〜
佐藤竹善
ユニバーサル 4500円