撮影:本社写真部
子どもたちが巣立った後、一戸建ての自宅を夫婦でゆったりと使っていたエッセイストの中山庸子さん。母と娘家族の移動にともなって、同業の夫と共用している仕事場を自宅内に移すことになり、断捨離を決行したと言います。家族それぞれが転換期を迎えた中山家、はたして取捨選択はどのような基準で行われていたのでしょう

親をリスペクトする姿を、子や孫に見せておきたい

現在わが家は、88歳から1歳まで、計6人の“民族大移動”にともなう断捨離の真っ最中。こうして取材を受けている今も、玄関先にリサイクルショップに引き取ってもらう荷物が山積みになっているなど、家の中が雑然としています。

きっかけは、88歳になる私の母でした。母は2年前に父を見送って以来、群馬県の実家で一人暮らしをしています。おかげさまですこぶる元気で、打ち込める趣味もあればお友だちもたくさんいる。東京にもちょくちょく遊びに来て、楽しく生活していました。ところがここ1年ほどの間に、彼女をとりまく環境が激変。仲の良かったお友だちが施設に入ったり、お子さんと同居するため遠くに転居したりして、遊び相手がいなくなってしまったのです。

しょんぼりと気落ちした母を見て頭に浮かんだのは、東京に呼ぶなら今なのかもしれない、ということでした。母も乗り気でしたし、関西で家庭を持っている私の息子の「そのほうが僕らも安心だ」という言葉も、私の背中を押してくれました。

母は料理が得意で、お茶の心得があるため和服の着付けもできます。自力で生活できない状態になってから呼び寄せるより、私や子どもたちが母から教われることがある今のほうが、お互いに幸せなのではないかと考えたのです。

人は突然老人になるわけではありません。いずれは自分も通る道。親をリスペクトしている姿を子どもや孫たちに見せておくことは、皆にとって良いことだという気持ちもありました。

そしてもう一つは、私たち夫婦の仕事場の隣室に住む、子育て中の娘夫婦の事情です。母を呼び寄せようかと考え始めたのとちょうど同じ頃に、娘から「部屋が手狭になってきたので引っ越しを考えている。来年2月の契約更新までに探すつもり」と相談され、なるほど今はこういうタイミングなのだ、と。

そこで万事丸く収めるべく、今回の大移動が始まったのです。家族全員で話し合った末に決まったのは、次のようなことでした。

①私と夫の仕事場を自宅の1階に移す
②仕事場だったマンションの部屋に娘一家が移り住む
③仕事場の隣に娘が借りている部屋を空け、母を住まわせる

仕事場のマンションから歩いて5分のところにある自宅は、3階建ての一軒家。1フロア1ルームの小さな家なので仕事場としては以前より狭くなりますが、年齢的にも、もうそれで十分かなと判断したのです。