作業の間、唯は滅多にしゃべらない。自分のサンドイッチを作るため、唯の向かいの席に座りながら、綾香はうつむいて集中する娘の体がにじんでぶれるのを感じた。粘土でお寿司を作っていた三歳の唯。折り紙でカエルを折っていた七歳の唯。刺繍糸でミサンガを編んでいた十一歳の唯。そして今、目の前でパン切り包丁を使って丁寧にサンドイッチを切り分けている十三歳の唯が、幾層にも重なって見える。どの年齢の彼女も、みずみずしい光を放っている。生きている光。いつも同じ席、同じ角度から彼女を見てきたため、そんな風に見えたのかもしれない。
ついつい目を奪われていると、ママ、と唐突に唯が顔を上げた。
「コンミートの缶をぺりっと開けるの、やりたい」
「あ、ああ。いいよ」
ツナ缶を一人で開けられるようになったのは、十歳ぐらいだったか。缶のふちで細い指を切らないか、はらはらしながら見守った。十三歳の娘は初めて手にする缶詰もなんなく開ける。唯は手仕事が好きだ。料理も、工作も、てのひらに色々な感触が返るのが楽しいらしい。
雨が降る休日に、こうして唯と一緒に家で作業をしていると、綾香は時々、自分たちが城壁に囲まれた小さな王国にいる気分になった。ここでは危険なことはなにも起こらない。ただ静かに、かけがえのない時間が流れていく。ジャガイモを潰すのもやりたそうだったので、綾香は唯に任せた。
できあがった二種類のサンドイッチを皿に並べ、さらに冷凍の唐揚げとカップスープとドリンクをつけたら、ちょっとしたカフェのランチみたいになった。綾香はスマホを取り出し、「きれいにできたし写真に撮ってパパに見せようか」と提案した。一緒に写ってくれる? と頼むと、唯は浅くうなずき、サンドイッチの皿に向けて両手を開いて少し笑った。綾香はスマホのカメラアプリを起動し、撮影ボタンをタップする。
かちゃ、と小さなシャッター音が鳴る。
