十九年前――二十二、三歳ぐらいの自分を、綾香は不思議な気分で眺めた。二十代前半の自分は、いろいろなことに悩んでいた。友達と並んで写真を撮ると、いつも自分が一番顔が大きいように見えること。下ぶくれなこと。足が太いこと。さまざまなコンプレックスを隠してくれる髪型や服装を探していたこと。恋人からないがしろにされること。仕事で失敗するたびにわっと動揺して死にたくなること。社会が漠然と、怖かったこと。
全然下ぶくれじゃない、と十九年後の綾香は彼女を驚きとともに見つめた。足だってきれいな形をしている。肌の血色も良く、なにより笑顔が素敵だ。ぱっと光を放っている。どう見たってかわいい。コンプレックスなんてかけらも持つ必要はなく、なんでも好きな服を着て、好きな髪型をすればよかった。恋人をないがしろにするような人間とは一秒たりとも付き合う必要はなかった。その瞬間に自分が持っている豊かさを、心から楽しめばよかった。
「若さが眩しい……」
思わず呟くと、あはは、と須賀さんが声を上げて笑った。
「ね! 私も同じこと思っちゃった。二人ともきらきらしてる」
「あれ、じゃあ須賀さんも?」
「そうよ、私もここにいるの」
須賀さんは指先で、餅の返し手を務める女性社員を指さした。先ほどから横顔が美しいと感じていた女性だ。長い髪をきつめにひっつめた清潔感のあるお団子ヘアで、まるで白百合のような凜としたたたずまいがある。
「わ、本当だ! 髪型が全然違うから気づかなかった。今ももちろん素敵ですけど、この髪型の須賀さん、俳優みたいでかっこいいですね。仕事できる上司の役でドラマに出てきそう」
「あらあ、ありがとう。当時、秘書室は顔採用のお茶くみ係だなんて、さんざん馬鹿にされてたの。名鳥さんにかっこいいって言ってもらえて、張り合いでるわあ」
須賀さんは片手を頬に添え、照れまじりに微笑んだ。
「私、この写真を見つけてすごくうれしくてね。変な話だけど、十九年前の自分がすごく素敵に見えたの」
「わかります、わかります。十九年前の自分は自分でいろいろ悩んでいたけど、そんな悩みは全部うそだよ! ってくらいかわいいし、もっと好きなように好きなことを楽しめばよかったーって思いました」
