「ふふふ」
興奮気味の綾香の発言を聞き、須賀さんは口に甘いものでも含んだみたいに幸せそうに口角を上げる。
「今、名鳥さんが言ってくれたことを、きっと十九年後の私たちも、現在の私たちに言ってるわ」
「え?」
「『今抱えている悩みは全部うそだよ! あなたは素敵よ、好きなだけ楽しんで!』って。この写真を見つけたときから、ずっとそんな気がしているの」
それは突飛な――しかし、言われてみると想像しやすいことだった。四十一歳の自分から見て、十九年前の自分は明るくてかわいらしい存在だった。同じように、十九年後の自分から見たら、四十一歳の現在の自分もまた、明るくてかわいらしい存在に見えるだろう。
「十九年後っていうと……私は還暦です」
「私は喜寿が間近ね」
「還暦の私は、四十一歳の私を……応援してくれそうです、たしかに。悩んでないで、今この瞬間を楽しんでって、言いそう」
「そんな十九年後の私たちだって、たとえば死んだあとの私たちからすれば『まだまだ元気! 好きな場所に行って、きれいなものを見て、楽しんで』って応援される対象なのかもしれない。だから未来の私たちにとって、今この瞬間の私たちは、いつだって眩しくて、素敵なの。そう思うと、ちょっとやる気が出ない?」
「そう……ですね」
眩しくて、素敵なのか。
目の下にコンシーラーを厚く塗っても消せないくまを飼っていても、二の腕がたぷたぷでも、寝起きの顔色がゾンビでも。
いや、素敵に感じるものなのかもしれない。綾香はダイニングテーブルの向かいの席でうつむきがちに作業する唯の姿を思い出した。
唯が幼児の頃、親族に、知人に、道行く人に、どれだけ「今が一番かわいいよ」と言われたことだろう。「自我が芽生えるともうだめ。生意気でかわいくなくなっちゃう」そう悪気なく口にする人が、本当にたくさんいた。
しかし日々大きくなっていく唯は、まるで内側から発光する樹木のようなみずみずしい気配を放ち、綾香にとってずっとかわいらしいままだ。たとえ娘自身が無加工カメラをいやがるようになっても、一切の加工をせずに撮った写真で十二分に素敵で、眩しい。唯にニキビができても腕毛が生えても自然なことだと思うし、マイナスにはとらえない。彼女が大人になっても、中年になっても、高齢になっても、そう感じ続けるだろう。
なら、自分に対してもそう思って、いいのかもしれない。
写真の使用を快諾すると、須賀さんは「よかった」とうれしそうに体を弾ませた。こぼれる笑顔が、可憐な紅梅のようだった。
