病院改革で鳴らした人物・北野博也さん

程なく、原田病院長へのリクエスト通り、鳥取大学医学部附属病院、通称・鳥大病院(地元の人は尊敬を込めて医大と呼ぶ)を見学することになった。原田さんは、2017年4月から病院長に就任。私が知り合う1年前のこと。それまでは、鳥取大学で耳鼻咽喉・頭頸部外科学教授を務めた北野博也さん(医療法人誠光会理事長)が2011年から病院長を務めた。次には清水英治さんが病院長を務め、次の原田省さんに病院長のバトンが引きつがれ、まだ一年になる前だった。バトンが渡されたばかりだった。

北野さんも実は病院改革で鳴らした人物。診療科長を任命する人事権を病院長に移行し、病院全体を俯瞰し迅速に意思決定出来るように組織改革を行った。また、当時、日本では最先端だったロボット支援手術の導入を推進。チーム医療の強化や病院の広報に着目し、JR東京駅構内に「シングルマザーいらっしゃい」と広告を打ち、東京からの女性医療従事者採用を積極的に推進。偏見を無くし支援・採用する姿勢を発信した。

(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)

また残業で遅くなっても医師・ナース・職員の子供達の食事や入浴のカバーまで行う24時間院内保育所を開設。子育てを理由にキャリアを諦めない環境づくりを行い、子育て世代が能力を最大限に発揮できる労働環境の整備に尽力した。後に北野さんとお会いした際に私はこんな質問をした。

「米子みたいな地方都市で、北野さんの改革は、相当浮いて見えたんじゃないですか?」

「そんなことは無いよ。僕の改革は女性がとても強く支援してくれた。この町は女性で回っている町やからね」

島根県松江市生まれ京都育ちの北野さんは笑った。

最新医療機器の導入、組織改革、女性改革や子育て支援。そんな“改革の種”が実は北野さんの頃に育まれていた事は興味深い。1年目の研修医時代に新教授として赴任した北野さんに師事した藤原和典さん(鳥大病院病院長特別補佐・頭頸部診療科群教授)はこう話す。

「北野先生が来るまでは、普通の地方大学の医局だった。ノンビリとした空気が流れていた。それが医局を根底から変えなきゃいけないとパワフルに話す北野先生に、私の上の方達は、大変なことになったぞという空気でした。山陰には、おとなしく引っ込み思案の人が多い。私も北野先生を知るまで、自分のやりたいことを、しかも情熱を持って話す人を見たことが無かった」と話す。

こんなエピソードにも北野さんの人並外れた改革魂を感じずにはいられない。私も「既視感の払拭」(どこかで見たような考えや発想を捨てること)をテレビ番組の制作で一番大切にしている。北野さんとは、後に様々な会議や打ち合わせでお会いすることになるが、その奇想天外で健全な発想にいつも共感してしまう。