島田 今回のみなさんも、それまで混乱のなかで自分自身を否定的に見ていました。でも父親の軍歴証明書を取り寄せたり、家系図づくりを始めたりするうちに、親や家を少し引いた視点で外側から眺めることができた。それで心が楽になったというようなことをおっしゃっていた方もいました。

信田 私たちは知識がないと楽になれないんです。あるものをなかったことにして、生きていくことはできない。人間は歴史的な文脈に生きていますから。

島田 自分のルーツを探り始めるにしたがって、どんどん本気になっていかれるんですよ。途中でスイッチが切り替わって、いい意味での執念というのかな。それは決してお父さんのことを知って許すとか、受け入れるというのではない。知ることを通じて、ご自分の人生を回復させるためだったのだと、途中で気づいたんです。

信田 そうですね。人のせいにすることでも、人を許すことでも、人を責めることでもない。むしろ歴史のなかに自分自身を位置づけることが、トラウマを乗り越えるためには重要だと。そういう意味では、日本の学校教育が現代史を全然教えていないのは問題だと思います。戦争トラウマを見ればわかるように、個人の歴史と国の歴史は対応しているから。

島田 おっしゃる通りです。

信田 いつも前向きでポジティブなだけでは、私たちは生きていけない。ちゃんと過去を見ながらしか、前に進むことはできません。国の歴史と個人の生育歴は2本の柱で、両方とも必要です。自分がどんな暴力を受けて育ってきたかということを知らないと、自分が作った家族に対する暴力抑止にはならないですから。