年を取るということは

高野 元気だった頃の自分と、比べてしまう人が多いんですよね。

養老 それはダメですね。「年を取るって、こういうことか」と受け止めるのが、上手な年の取り方なんですよ。つらいことを言い出したらキリがない。僕は本を読むスピードがめちゃくちゃ落ちましたからね。裸眼で活字が読めるというのは幸せなことだったと、今になってわかる。今は老眼鏡を首から下げていますから。

『“幸せ”よりも “居心地”のよい生き方』(著:養老孟司、高野利実/ビジネス社)

高野 年を取ることは、何かを失っていくものだという考え方が強く、それに抗う「アンチ・エイジング」に関心が高まっています。でも、老いは自然なものであって、それに抗うのには無理があります。何かを失っていくとは考えず、老いていく自然な流れに身を委ねたうえで、年相応、あるがままに生きていく「ウェル・エイジング」という考え方も提唱されています。失っていくものを悲しんだり抗ったりするよりも、今できることの中で、居心地よく人生を積み重ねていく感覚です。

養老 それを赤瀬川原平さんが『老人力』で書いたんです。「忘れっぽくなった」のではなく、「忘却力がついた」って。

高野 その感覚は大事ですよね。失っていくだけだと、救いがないですが、年を重ねて自然に得られるものを大切にするウェル・エイジングの人生のほうがいいなと思います。

養老 それはアジア的ですね。西洋人には、あまりそういう考え方がない。上手に年を取る、いい年の取り方という発想がなくて、若ければいいみたいに思っている。