寄り添って老後』(沢村貞子:著/中央公論新社)

 


日本中が高度成長の熱に浮かされていたころ――よもやま話のテレビ座談会に出席し(中略)評論家のXさんに叱られた。

「そんなしみったれた古くさいことを言うと、折角、盛りあがってきた高度成長の波がとまりますよ。景気が悪くなって失業者が多くなったらどうします? 折角高くなってきた土地の値段がさがったら、どうしますか?」(中略)

「アメリカが世界経済で主役の座を取り戻すために必要なのは、老人給付政策を大幅に縮小することだ」というある政治家の言葉に老女の私の心は冷え冷えとした。

何故、世界経済の主役にならなければいけないのだろうか? (中略)豊かでない老人たちを見捨てなければならないのだろうか?(中略)

どんな豊かな人も貧しい人も偉い人も普通の人も、間違いなく、齢を重ね、老いてゆく。なにかの縁で、永遠の地球のこの一瞬に生れあわせた人間同士――せめて、互いに寄り添って、優しく手を貸しあって生きたい、というのは無理な願いだろうか。そのほかに、どんな「人間の倖せ」があるというのか……わからないことばかりである。

今日も私は台所で、老人夫婦のおままごとのような料理をこしらえている。お米もほんのすこしだけ……(中略)私たちもどうぞ、棄てられませんように……。

(『寄り添って老後』より)