「ミッドライフクライシス」を乗り越えるために

ミッドライフクライシスの真っ只中にいれば、焦燥感や虚無感、孤独感はつきものです。まずその現実を認め受け入れることが、この時期を乗り越えるためには必須です。

また、思春期が心身の「成長」において必然的に訪れるターニングポイントであったように、ミッドライフクライシスも、人間としての「成熟」と、人生の目標を見直し新たな自分を発見するための重要な転換期であると受け止めることが大切です。

(写真提供:Photo AC)

ミッドライフクライシスの概念を定義づけたのは先にご紹介したとおりエリオット・ジャックスですが、そのベースになったのは、スイスの精神学者・心理学者カール・グスタフ・ユング(1875〜1961年)の理論です。

ユングは、人生の中間地点(ユングの時代では35〜40歳前後)を太陽の日周運動にたとえて「人生の正午」とし、「午前」は人生の前半で、社会に適応し社会的に成功するための自己を重視する時期、対して「午後」は人生の後半で、内面的な自己実現(個性化)を重視する時期と位置づけました。

そうして「正午」は、「午前」から「午後」に向けてアイデンティティを再構築する転換期にあたり、価値観のシフトを伴うがゆえに必然的・不可避的に心理的な葛藤や危機(クライシス)が生じる時期であるとしています。

ただ、このミッドライフクライシスは、単なる「危機」ではなく、精神的な成熟、人格(自己)の統合、そして真の自己実現へ至る「チャンス」でもあり、「無意識からの要請」であるとも解釈されています。

また、ユングは、

「人生の『午後』において、無理に『午前』のような社会適応や社会的成功を追求するやり方で進もうとすると、激しい葛藤が生まれる」

と指摘しています。

心理学に「ジョハリの窓」というフレームワークがあります。1995年にアメリカの心理学者ジョセフ・ルフトとハリントン・インガムが考案したもので、自己を「自分から見えるか」「他人から見えるか」という2つの軸で、「開かれた窓」「見えない窓」「隠された窓」「未知の窓」の4つに分類します。このフレームワークは、自己理解と他者理解を深め、より良い人間関係を築くために広く活用されています。

「ジョハリの窓」を使って簡単に説明してみると、「人生の前半(40代半ば頃まで)では、社会に適応し、社会的成功を達成するために「開かれた窓」の自己が中心であったが、人生の後半では、『隠された窓』や『未知の窓』の自己に重きを置いて、より深い自己実現を追求することが望ましい。それは、『本来の自分を取り戻す』チャンスでもあり、『未知の窓』の自己の潜在的(無意識)な欲求でもある」ということになるでしょう。そうして、「これからの人生では、社会への適応や社会的成功を目指すための自己形成にこだわると、自分の潜在的な欲求との間での葛藤、つまり自己乖離が生じる」と言っているのです。