小さな車は「相棒」に

そしてつい最近まで乗っていた車はこれまでで一番小さな車だった。当時、一緒に暮らしていた犬が車に乗るのが苦手でその小さな車を選んだ。それは「車内が大きいと目が回る」という私の論理で、「遠足のバスは後ろの席が酔う」という経験を踏まえてのことだった。しかし犬のためにと小さな車にしたのに、犬の車酔いは治まらなかった。車に乗せるたびにつららのようなよだれを口からぶら下げていて気の毒だった。

三十代後半から乗り続けたその車は、いつの間にか私の愛車、相棒となった。家族、友人、たくさんの人がその車に一緒に乗った。ひとり大声で歌う日もあれば、涙にぬれて運転することもあった。

『むしろ映えてる日々』書影(帯付き)
『むしろ映えてる日々』(著:小林聡美/毎日新聞出版)

そして事故も故障もなく、機嫌良く走り続けてくれたその車も、去年の夏頃から、ぽつぽつと不備が見られるようになった。あと付けのカーナビ(アップデートされていない古い地図の)が格納されない。電動のドアミラーがたためない。運転席側の日よけが落っこちる。天井のシートが剥がれてくる。天井のシートについては、インターネットで対処法を調べてみると、「洋裁用の待ち針でとめて応急処置を」とあって、同じように困っている人がいるのだな、とちょっとうれしくなった。

それらの不備は確かに困るけれど、「いつか来る終わり」を少しずつ受け入れるような気分だった。決していらっとするものではなく、「ああ、来たね。そうだよね」とねぎらいの気持ちもこみ上げた。