自ら幕を引いた「彼女」

そんな満身創痍にもかかわらず彼女は、仕事に向かう連日の長距離もけなげに馬力を発揮した。「アタシ、まだまだいけるわよ」と言っているようだった(車は「彼女」という設定です)。それでも彼女の「お仕舞い」は遠くはない気がしていた。仕事で彼女を稼働させるのはそろそろ限界かもしれない、と。

満身創痍で走りに走った一年も終わる頃、愛着のあるその車を手放す決心をし、新しい車を迎える計画を立てた。ショールームに予約を入れて、車で向かうつもりだった。

その朝、残り少ない相棒との時間を楽しんで運転しよう、とエンジンをかけた。すると、「カカカカカ、キュン」といったきり、エンジンがかからない。何度やってもかからない。昨日まで、普通に運転できていたというのに。物を擬人化することはあまりないけれど、これは彼女の意思だと思った。彼女は自ら、幕を引いたのである。

あまりに急なこのタイミングは、寂しいのと同時に、「前へ進みなさい」というメッセージにも思えた。もちろん彼女からのである。