咲子がどうなるか

咲子は最終的に、誰とも一定の距離を置く道を選ぶ。干渉も放任も望まない咲子が、あらかじめ辿り着くことが決まっていた場所だったのではないか。咲子が結婚雑誌の編集者というのが、皮肉が効いていた。

それでも咲子が順子の娘であることには変わりがない。作者の生方美久氏(33)は最終回に、ちょっと怖いシーンを挿入してきた。約半年後に小学校入学を控えた翔のため、咲子が通学に使う手提げ袋をミシンで縫い始めたシーンである。

咲子はご機嫌な様子でミシンを掛けたが、樹生は頼んでいなかった。翔もせがんでいない。しかも入学はまだ先だ。いくら家族ぐるみの交際とはいえ、奇異である。順子譲りの子供への過干渉の始まりを強くにおわせた。

ミシンは充の失踪中だった第5回、納戸から出した。高い場所にしまってあったので、樹生と一緒に買いに行った脚立を使った。脚立とミシン。このドラマは比喩が散りばめられてたが、このシーンは、咲子が従来型の家族の形から離れようとする思いを、深層心理で抱き始めたことを表していたのではないか。

充も生い立ちから逃れられなかった。親からひどいネグレクト(育児放棄)を受けたため、失踪癖が付いてしまった。同じ場所に居られないのではない。最も身近な人間関係である家族が崩壊していたので、固定化された対人関係を築くスキルがないのである。家族や職場のような、固定化された人間関係の中で暮らす術を知らない。

だから、充は咲子と夫婦であるにもかかわらず、「嫌われるのが怖い」と怯え、思ったことを話せなかった。一方で、コインランドリーで知り合ったあずさとは何でも話せた。知らない人の前では無遠慮になれるところは「旅の恥は掻き捨て」と似ている。咲子が切り出した離婚は、充を精神的に自由にするためでもあった。

充が咲子に強い未練を抱いたのはよく分かる。生まれて初めて家族の温もりを知ったのだ。この家族を手放したくないだろう。もっとも、夫婦関係の継続は到底困難だった。夫婦は片方の思いでは成立しない。

イメージ(写真提供:Photo AC)

最終回で咲子は樹生に、「なんで、いままで家族とか夫婦という形にこだわっていたんだっけ?」と不思議そうにつぶやいた。まさに結婚に関する価値観が多様化した時代のホームドラマだった。

樹生は母親の里実(長野里美)と昔から折り合いが悪かった。里実は自己主張が強く、ちょっと冷たい一面もあったからである。だが、里実程度の母親なら、どこにでもいる。樹生は里実への要求が厳しすぎた。自分の嫌いな食べ物まで尋ね、知らないと失望した。樹生は不満を募らせるうち、里実にも周囲にも自分にも「こうあるべきだ」という規範意識を強めていった。

だからこそ、あずさが電車内でお年寄りに席を譲らない若者に意見すると、樹生は感動してプロポーズを決意した。かなり独特の感動のポイントである。

一方、あずさは樹生の規範意識が好きになった。あずさは樹生の会社の元受付担当者だったが、樹生は2人の交際前から、受付担当者や警備員に挨拶を欠かさなかった。樹生のようなサラリーマンはごく少数派である。