宇野さん、よく来てくれた

ああ、今日はやっと、梶井さんのお墓(大阪市・常國寺)にくることができてよかったわ。お墓の前にいたときだけ、雨が降ったのね。梶井さんが、宇野さんよく来てくれたって、喜んで泣いてくれたような気がしたわ。

梶井さんは話をするのが上手な人でね、きいていると面白くて惚れぼれするようだったわ。人の話をききとるのも上手で。でも、僕はこう思います、とか、僕の気持は、なんていうことは言わない人なの。

『宇野千代 ちょっと自伝』(著:宇野千代、文:三宅菊子/マガジンハウス)

だから、梶井さんがわたしに恋愛感情を持っていただろうって、人はよくそう言いますけれども、それも梶井さんはこうだっただろう、とこちらが察するよりほか方法がないの。わたしは、姉弟のようなというのが一番的確のように思うけれど、仮に恋愛だとしても、とても抽象的なものでしたね。

伊豆の湯ヶ島でしょっちゅう会っていた時期の少し後に、大阪へ帰ることになった。そのときに、「僕が死ぬようなことがありましたら、宇野さん手を握ってくれますか」と、改めてきかれたことがある。わたしは、無論手を握ってあげますよって返事をしたんだけれども……。