アナーキズムの影響力を過小評価する日本
日本ではアナーキズムの影響力が過小評価されている。それには、第一次世界大戦後に日本の社会運動で起きたアナーキズムとボリシェヴィズム(共産主義)の抗争で、共産主義が勝利したという認識があるからだ。第一次世界大戦後、労働運動が高揚したが、当初は大杉栄らによるアナーキズムが強い影響力を持っていた。
他方、1917年11月ロシア社会主義革命の影響を受けて共産主義も労働運動に影響を与えるようになった。1921年4月のロシア共産党第10回大会でアナーキスト排除が決定された影響で、日本でも、アナ・ボル論争が起きた。労働組合の組織原則をめぐってアナーキストは自由連合主義、共産主義者は中央集権主義を主張した。
1923年9月の関東大震災の際に大杉栄らが殺害された後、アナーキズムの労働運動や政治活動に与える影響は著しく後退した。しかし、ヨーロッパや北米では、アナーキズムはその後も無視できない影響力を持ち続けた。ソ連崩壊後、共産党や新左翼など共産主義勢力の影響力はヨーロッパで著しく後退した。
アナーキズムに関しては、これまで共産主義に引き寄せられていた不満分子を吸収し、むしろ影響力は強まっている。アナーキストは自らを特定の主義を掲げる勢力と規定しない場合が多い。フランスのマクロン政権の燃料税引き上げ政策に対する反発をきっかけに2018八年11月に同国の首都パリで始まった抗議活動「黄色いベスト運動」(デモの参加者がフランス語で「ジレ・ジョーヌ」と呼ばれる黄色い安全ベストを着用していることに由来する)もアナーキズムとの親和性が高い。
ここで重要なのは、アンティファが起こす騒擾を利用して権力を奪取しようとするグループが出現する可能性があることだ。そういうグループが参考にするのがイタリアのジャーナリストで小説家のクルツィオ・マラパルテ(1898~1957年)が展開したクーデター論だ。