全国公開中の映画『汝、星のごとく』。原作は凪良ゆうさんの同名小説で、本屋大賞を受賞した人気作。瀬戸内の島で出会った男女の15年に渡る愛と選択の物語です。家庭に恵まれず孤独を抱える2人は強く惹かれあいますが…。主演は横浜流星さんと広瀬すずさん。コラムニスト、編集者の小林久乃さんによるレビューをお届けします。
物語は漫画原作者を志す青埜櫂(横浜流星)と、刺繍に関心を持つ井上暁海(広瀬すず)が住む瀬戸内から始まる。出会ったときはふたりは高校生だったが、夢を叶えた櫂が上京して漫画家として売れっ子になると関係性に歪みが生じる。まだ男尊女卑の風潮漂う田舎でうつ病の母を捨てられず、時間が止まったままの暁海。突然手にした大金にまみれていく櫂。格差と距離に耐えきれず、暁海は櫂の手を離した。時を同じくして櫂のビジネスパートナーであり、漫画の作画を担当する久住尚人(松村北斗)のパーソナルな部分が知られてしまい、世間から大きな非難を浴びることになり、漫画家生命に暗い影が差す――。
高校生による甘酸っぱさ満点の恋
公開中の『汝、星のごとく』はとてもうるわしい映画だった。動画を止めて、静止画で見つめていたくなるシーンがいくつもあった。
まずはなんといっても櫂と暁海の高校生活。互いにヤングケアラーであると知ると、一気に距離感が縮まっていくふたり。学校帰りの楽しそうに自転車二人乗りをする向こうにはいつも美しい海が広がっていた。砂浜とかわいい高校生がいる景色、それだけでも充分なのに演じているのは横浜流星と、広瀬すずなのだから目がくらむ。日本中の水分を背負っているように爽やかだった。そして少し切ないファーストキスを経て、ふたりは繋がっていく。
いくつか恋愛を経験すると身に沁みるが、10代の恋愛とは、相手を疑うことを知らないから真っ直ぐだ。だから自然と額を合わせて笑顔になれる。周囲の人間が嫉妬するほど、ふたりの世界に浸れる。鑑賞中、幸せそうなふたりをながめていると、つい自分も同じような甘酸っぱい体験をしていたのではないかと錯覚をしそうになった。実際はもう昔のことすぎて忘れてしまった。映画で記憶を上書きだ。
ちなみに横浜と広瀬は共演作が多く、原作者が本作と同じ凪良ゆうによる、映画『流浪の月』(2022年)でも恋人同士を演じている。ここでは求めあうだけではなく、ドメスティックバイオレンスシーンもあった。でもそんな過去作の気配を微塵も感じさせない、慈しみに近い何かがスクリーンに浮かんでいた。