櫂と暁海を取り巻く3人の女
続けて気になったのは櫂と暁海と囲む、レジリエンスを持って生きられない女性たちのベストキャスティング。スナックを経営する櫂の母・ほのか(尾野真千子)は恋をしてはすぐ男性に裏切られ、酒に溺れて、そのたびに櫂に泣きつく、映画でよく観る典型的なダメ母だ。でも少しだけ俯瞰をしてほのかを観察すると、彼女はひどく素直に見えた。大人になりきれないまま、母親の道に引きずりこまれてしまったようだ。そんな人物像だからこそ、油断をすると嫌味に映る。が、演じた尾野のとても真面目で磊落なパブリックイメージが役とよく似合っていて、ほのか役に投下されていた。これは映画でよく観てほしい。
暁海の母・志穂(木村佳乃)は夫が愛人を作って家を出て行ったショックから、精神を病んでしまう。娘もなにもかも信じられず、どんどん世間から乖離していく。そんな役を演じた木村の気迫には圧倒された。特に夫の愛人を真似て、髪の毛を切ってコーディネートを似せた狂気ぶりがすばらしかった。
そして志穂から夫を奪った林瞳子(石田ゆり子)は、オートクチュールの刺繍作家で奇しくも暁海は、瞳子の影響によって刺繍の道に進む。実は映画公開とは関係なく、個人的に原作を読んでいたので、石田のキャスティングがいちばん意外だった。彼女もう少し強めの印象の俳優が選ばれると思ったのだ。でも作品では「あ、この人は本当に面倒な女だけど、芯は強いのか」と感じさせる姿があった。石田で正解だった。この3人はすぐに噂も広まるような田舎町に在住していて、共通するのは広い海原の近くに住んでいるという環境のみ。彼女たちの機微によって、海が非常にも穏やかにも映っていた様子を見逃さないでほしい。