自分で考えた図案が形になっていく過程と、完成した時の達成感の虜に。「アイデアは寝てる時にポッと思いつく」と勝さん(撮影:霜越春樹)
偶然見つけた生きがいが、本人だけでなく家族の人生にも影響を与えることがある。病気がちで貯蓄もない――生きる希望を見失っていた元電気工事士の齋藤勝さんは、80代でミシンの魅力に引き込まれた。その情熱に突き動かされた家族に起きた、小さな奇跡とは(撮影:霜越春樹)

<前編よりつづく>

SNSに投稿し、注文が殺到

事態が大きく動いたのは、2020年7月のことだった。留学先のアメリカから千里さんの長男が一時帰国。

勝さんの作品を見るなり、「すごい! せっかくだからSNSに載せよう。拡散力が大きいツイッター(現・X)がいいと思う」と若者らしいアイデアを口にしたと思うと、いとも簡単に「G3sewing」のアカウントを開設したのだ。そのスピード感に慌てた千里さん。

「老いた父が作っていることをポジティブに捉えてもらえるはずがないと思い、『私が製作していることにしよう』と息子に言ったんです。そしたら、『嘘はあかん。こんなすごいバッグを82歳のおじいちゃんが作ってることに価値があるんだよ』と言われてしまって」

1週間後、千里さんはわが子の意見が正しかったことを思い知る。今も一番人気を誇る赤椿のがま口バッグと勝さんの写真を投稿したところ、なんと14万件の「いいね」がつき、商品への注文が殺到したのだ。その数、1ヵ月で800件以上。

あまりの反響にパニックになりながらも、家族で話し合い、勝さんが製作、陽子さんが検品・包装、千里さんは英語教師の仕事の合間に進行管理・発送・経理などを担当することに。それから少しずつ無理のない生産体制を整えていった。

最初に受注した800件分は、1年半かけてお客さんのもとへ。以降も最長1年半待ちの状態が続き、その人気は今も衰えを見せない。