偶然見つけた生きがいが、本人だけでなく家族の人生にも影響を与えることがある。病気がちで貯蓄もない――生きる希望を見失っていた元電気工事士の齋藤勝さんは、80代でミシンの魅力に引き込まれた。その情熱に突き動かされた家族に起きた、小さな奇跡とは(撮影:霜越春樹)
職人魂に再び火がついて
三重県四日市市の住宅地。その一角に、バッグや布小物を製作する「G3sewing(じーさんソーイング)」の自宅兼工房がある。商品作りに携わるのは、齋藤勝(まさる)さん(88歳)。初めてミシンと出合ったのは今から7年前、2019年のことだった。
「娘の千里(ちさと)が、『これ直して』と壊れたミシンを持ってきたんです。長年、電気工事士をやっていたから、それぐらいは朝飯前。修理を終えて動かしてみたら、瞬く間に布が縫い上がっていくやないですか。おお、これは面白いぞと」
笑顔で話す現在の姿からは想像できないが、当時、勝さんは一日の大半をベッドの上で過ごしていた。
60代後半から、大腸壁に袋状の膨らみができる大腸憩室(けいしつ)症、大動脈解離と立て続けに大病を患い、その後も胆石症、痛風、糖尿病などに苦しみ続けた。たび重なる病気が原因でうつ病にもなり、自殺まで図ったという。
「お金がないのに病院代ばかりかかって、子どもたちからお小遣いもらって。ほんまに情けなかった」と勝さん。三女の畑中千里さんは振り返る。
「父は病気になってから精神的にも不安定で、とにかくすぐ怒るんです。家族全員が迷惑がり、私は実家に寄りつかなくなっていた。でも、ごくたまに帰って寝たきりの姿を見ると、やっぱり心配で。職人魂にまた火がついたらいいなと思い、壊れたミシンを直してもらったんです」