聖書カバーや、ネクタイを縫い合わせたポーチなど、初期の作品。「今からしたら、こんなん売れるはずないわ(笑)」と勝さん。何度も失敗しながら改良を続けた

その願いは、誰も予想しなかった方向へ勝さんを動かしていく。「何か縫いたいなあ」とやる気を見せた勝さん。齋藤さん一家はクリスチャンのため、千里さんが自分で作った聖書カバーを見本に渡すと、あっという間に18枚も縫い上げたという。

それを皮切りに、コースターやマスクを量産。家にある財布やポーチを分解して仕組みを調べ、設計図まで作るようになった。

今ではブランドをともに支える妻の陽子さん(84歳)も、あまりの変化に驚いたと語る。

「よほど楽しいのか、朝起きたらすぐ作業。あんなに無気力で不機嫌だったのに、気づいたら笑顔が増えてました。ミシンさまさまです。ただ、朝5時からガーッと縫い始めるので、当時同居していた長女は『うるさくて寝られへん!』と怒ってましたね(笑)」

それからというもの、家じゅうの布という布――カーテンや座布団カバー、シーツ、果ては自転車カバーまでが、ポーチやバッグに化けていった。極めつきは、勝さんが詩吟の師範として活躍していた頃の表彰状を「ちょうどええ」と型紙にしたことだろう。

作業に没頭するあまり座りっぱなしで足がむくみ、家族から「ミシン禁止令」が出されても、当の本人はどこ吹く風。ひたすら縫い続け、驚異的な速さで腕を磨いていった。