(画:一ノ関圭)
詩人の伊藤比呂美さんによる『婦人公論』の連載「猫婆犬婆(ねこばばあ いぬばばあ)」。伊藤さんが熊本で犬3匹(クレイマー、チトー、ニコ)、猫3匹(メイ、テイラー、エリック)と暮らす日常を綴ります。今回は「はじめての大地震」です(画:一ノ関圭)

ぐらぐらっとしたかと思ったら、チトーが脱兎のように飛び出していった。

ただごとではないと思い、大きい地震だと思い当たったとき、動転したクレイマーがよろめいていたので、抱き止めるとしがみついてきた。あたしはクレイマーを抱いたまま、床に坐り込んで、周りで本が落ちていくのを見ていた。台所からがしゃんがしゃんと音が響いてくるのを聞いていた。

揺れは十数秒間続いた。空気ごとわしづかみにされて揺さぶられているような、でも自分だけぽっかりと無風無圧の空間にいるような、不思議な感じだった。

猫たちとチトーは隠れていた。机の下、押し入れの隅、ベッドの下、ピアノの下のソファの後ろ。連中の危機管理の本能はすごかった。クレイマーだけがなすすべもなく、あたしにしがみついていたのだった。

もしかしたらクレイマーはあたしを守ろうとしたのだ。老いてよろよろだったから、あたしに守られちゃったのだ。守り守られ。これが家族なのかもしれなかった。

揺れが止まり、あたしは立ち上がり、惨状を見た。

十年前の熊本地震、あのときあたしはカリフォルニアにいて経験しなかった。熊本の友人たちが「最初の地震の後を片づけて、ヤレヤレと思った二日後に震度七の本震が来てぐちゃぐちゃになった。最初のとき片づけなきゃよかった」と口々に言っていたのはすごく心に残った。でも目の前でこなごなになった食器棚の中身を見たら、片づけないわけにはいかない。さて、と思ったとたん、陶器の破片が足の裏にぐさりと刺さった(数日後、化膿して医者に行った)。

ねこちゃんの形見の食器がほぼ割れた。十年前の地震でふちが欠けた花瓶がこなごなになった。ワイングラスは壊滅した。あたしはがしゃんがしゃんと大きな紙袋に捨てた。