逢ってみたところで失望するだけ
あなたは18年ぶりで電話で話した男友だちに、バラ色の夢を託して、彼に逢いさえすれば、少女の昔に立ち返って、もう一度人生をやりなおせるような期待をもっていらっしゃるようですが、それは無理です。
たとえ何年別れていても、逢ったトタンに幸福になれるのは、生命をかけた大恋愛をむりやり引きさかれていた男と女の場合だけです。初恋に破れてそのショックで見合い結婚した時にも忘れていた程度の人では、とてもだめです。
もの珍しさで逢ってみたところで失望するだけでしょうが、もし、そのことのために、彼の人生や家庭を狂わせるようなはめになったらどうなさいますか。あなたは「主人なんかいらない」そうですが「頭のいい素直」な子供さんたちをいらないのですか、その将来を傷つけてもいいと思っていらっしゃるのですか。
お望みのように離婚して一人になれば、もちろん働くだけ働かなければなりませんが、力仕事も出来ないあなたが、ひとりで食べるのは大変だと思います。
あなたの自暴自棄で愛情のない結婚をしたことを本当にご主人にすまないとお思いなら、もう一度ご主人を見なおしてみてください。甘ったれのあなたと今日まで一緒にいてくれただけでも、私には立派な方のように思えます。
(「毎日新聞」1969年3月18日)
※本稿は、『わたしの人生案内』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『わたしの人生案内』(著:沢村貞子/中央公論新社)
恋愛・結婚、人間関係、介護、死別、生きがいについて……随筆家としても知られる名脇役の下にさまざまな悩みが寄せられた。
ときに厳しくも機微にふれる回答には、二度の離婚と三度の結婚を経て、人生の裏表を知った著者の濃やかな優しさがにじむ。
初書籍化となる新聞連載の人生相談83篇に、女性の生き方をめぐる随筆を併せた一冊。





