「70代後半から、どう生きるか。すぐ死ぬんだから、十分に楽しんで新しいことにもチャレンジしようと思える人とそうでない人では、人生の後半が大きく変わってきます」(内館さん)

リュックを背負う高齢者が気になって

三田 この物語の構想は、何かきっかけがあって生まれたのですか?

内館 だいぶ前から、リュックを背負う高齢者が多いのが気になっていたんです。両手が空くから安全だし、重さも感じにくいので、私もリュックを否定はしません。でもなかには、ちょっといいレストランにも、同期会にもリュックで行かれる方がいる。一番驚いたのは、告別式でも何人か見かけたこと。しかも、日常使いらしきヨレた代物を背負っていて……。

三田 そうですね。TPOは大切かもしれません。

内館 その姿を見ているうちに、生き方そのものがリュック仕様になっているのではないか、という気がしてきました。そうなると、髪の毛がボサボサでも、帽子をかぶるからいいや、と。帽子で見えないからメイクもしない。体をしめつける服はしんどいから、ウエストがゴムになっているラクなパンツをく。それが当たり前になるのは、ちょっと怖いなと思ったんです。

三田 確かに……。気づかないうちにそうなっていくんですよね。

内館 ある時、70代後半から80代の人を対象とした茶話会にオブザーバーとして呼ばれる機会があって。参加者は“おしゃれ系”と“リュック系”、見事に分かれていました。おしゃれ系の方たちは、決してお金をかけるという意味ではなく、自分に手をかけている。見ていると、初対面の人に「もう1杯お茶はいかが?」と勧めるなど、闊達で朗らかなのはおしゃれ系の人たち。一方リュック系は、おしゃれ系の人たちをちょっと不快がっている。見た目の若々しさに歴然とした差があることに気づき、内心なんとなく面白くないんでしょうね。

三田 ドラマでは同期会のシーンが、そんな感じですね。若々しいハナに、嫌みを言う人がいる。

内館 「どうせすぐ死ぬんだから」と、自分をかまうことをやめてしまった人は、おしゃれな70代、80代に対して、「あの人はお金があるから」とか「私は忙しいから、それどころではない」などと言いがち。でも、それは違う気がします。要は意識の問題。お風呂に入って5分間、顔をマッサージすることは、お金や時間がなくてもできるはずだし。

三田 一方で、「すぐ死ぬんだから」には逆の意味もあると思います。もう時間があまりないからこそ、前を向いて、思いっきり生きよう、と。ハナは、そちらですよね。

内館 70代後半から、どう生きるか。すぐ死ぬんだから、十分に楽しんで新しいことにもチャレンジしようと思える人とそうでない人では、人生の後半が大きく変わってきます。

三田 同じ言葉でも、2つの面があるわけですよね。ハナを演じてみて、つくづく「だからこそ、今が大事」と感じました。