三田佳子さん(右)と内館牧子さん(左)(撮影:宮崎貢司)
年齢を重ね自分のスタイルができてくると、新しいことはおっくうに感じがち。でも脚本家の内館牧子さんは心持ちひとつで人生後半が大きく変わってくる、と言います。女優の三田佳子さんは、内館さん原作の作品に出演するという長年の夢が実現。二人が考える、歳を重ねてからの外見と気持ちの若々しさとは(構成=篠藤ゆり 撮影=宮崎貢司)

人生というのは、平らかではないから

三田 先日、内館さんが原作をお書きになったドラマ『すぐ死ぬんだから』の撮影中、陣中見舞いに来てくださって──。

内館 三田さん演じる主人公とワケあり女性の余貴美子さんが対決する、すごいシーンでしたね。

三田 台詞も多いし、一歩も引かない気迫も必要ですから。ものすごいプレッシャーでした。

内館 びっくりしたのは、三田さんは原作をお読みになってすぐに、ご自分からドラマ化を希望されたとか。主人公のハナは町の酒屋の奥さんで、まさに庶民の代表。ゴージャスな大女優が、なぜハナを演じたいと思ったんでしょうか。

三田 まず、『すぐ死ぬんだから』というタイトルにクラクラ。内館さんでなければ、このタイトルは生まれなかったと思います。それになにより主人公のハナは78歳で、私と同い年です。こんな奇跡のような出会いはないと思い、何が何でもハナを演じてみたいと気持ちが逸りました。いつか内館さんの作品に出たいと思っていましたのに、機会がなく寂しかった。

内館 三田さんの、そのスピード感に驚きました。

三田 日本では、高齢の女性が主人公の小説やドラマは滅多にありませんでしょう。今、多くの方が関心を持っているテーマなのに。

内館 確かにそうですね。ハナは68歳までは家業に必死で、おしゃれなんかしたことがなかった。年齢よりも老けて見えるバァさんだったわけです。その頃の様子も演じられているんですよね。

三田 はい。店員に「お若いですね。72、73歳にしか見えません」と言われてしまうことで、ハナが変わっていくきっかけになる大切なシーンですから、いろいろ苦心して頑張りました。見事にくすんでいますよ。(笑)

内館 ハナはまだ60代なのに。

三田 ショックを受け、生まれ変わりたいと思う。その出来事が、後半の人生を輝かせるターニングポイントになったわけですよね。そして、「老いは退化である。だから外見こそが大事なんだ。生き方にも通じる」と言い切ってそれを乗り越えていく。思いがけない波瀾も経験するけれど、立ち直れたのは、好奇心と「負けない」という精神があるから。そこが作品の大きな魅力だし、だからこそ役者としてどうしても演じてみたい、挑戦したいと思ったのです。

内館 そう言っていただけると、うれしいです。

三田 悔しい時は罵詈雑言も口にしますけど、最終的に「ま、いいか」と思える。その精神は、何歳からでも、鍛えれば身につくと思うのです。やはり人生というのは、平らかではないものでしょう。でも艱難辛苦もまた、自分が変わるきっかけになっていく。私も、そういう経験をしてきましたから。

内館 あぁ……。いろいろな人生経験を積んでこられたからこそ、ハナに共感するところも大きいんでしょうね。

三田 78歳という設定にも納得しました。私はもうすぐ79になりますが、80を目前にしたこの微妙な年齢。残り時間が限られている実感があり、まさに「待ったなし」なんですよね。私より若い方が次々亡くなっていますし。

内館 本当にそうですよね。