左から小泉今日子さん、重松清さん、行定勲さん

劇場という場があれば発信できるものはある

重松 僕は大学で教えているのですが、2月半ば、演劇をやっている教え子が、劇団旗揚げから史上最短の2作目で本多劇場で公演をすることになったんですね。

小泉 それはすごい!

重松 舞台のアフタートークに呼ばれて行き、「ああ、劇場はいいよなあ」と思いました。ところがコロナのせいで、その公演を最後に本多劇場も長いクローズに入った。小泉さんは舞台のプロデュースを多く手がけていますが、この半年はいかがでしたか?

小泉 3月25日、世田谷パブリックシアターでの『マイ・ラスト・ソング』という舞台は、感染拡大防止対策を行ったうえで上演しましたけど、4月から6月の公演はすべて中止。パソコンに向かい、中止をお知らせする文章を何度つくったことか。チケットの払い戻しなどもあり、疲れ果てました。

重松 プロデューサーとしては大変ですよね。

小泉 10月にプロデュース公演が決まっていて、本多劇場を3週間、予約していました。けれど、現在のガイドラインでは、定員の半分しかお客様を入れられない。組んでいた予算での公演はあきらめざるをえませんでした。出演予定のキャストの方々の事務所にお詫びしてまわり、「心情的には中止ではなく、無期限ですけど延期。いつか再チャレンジさせてください」とお願いしました。

重松 劇場へのキャンセル料も大きいのでは?

小泉 実はキャンセルはしませんでした。劇場さんも収入を失うことになるし、予定したものはできなくても、何かやるべきなのじゃないか。劇場という場があれば、発信できるものはあるはず。そう考え、急遽、別の企画を立てるべく、今、動いているところです。チケット料金を通常よりお手軽にし、たとえば親子鑑賞用の公演も企画し、その場合お子さんは500円にするとか、そんなことも考えています。

重松 現実問題として、お金の工面はシビアでしょう。

小泉 今はみんな同じ状況だというので、公演をキャンセルしたことによる補償金などに関しては、スタッフやキャストも状況を理解してくださり、こちらの提示した金額で受け入れてくださったし、劇場さんも協力的です。この状況下によって、「みんな仲間なんだ」という印象をより強くしました。

重松 舞台公演がないと、役者さんもスタッフも経済的にキツいはずなのに。

行定 小劇場はとくにそう。僕の知るプロデューサーの話ですが、稽古だけで立ち消えになってしまった幻の舞台があった。主演女優には、交通費と1ステージ分だけのギャラを渡し、大半の人には申し訳ないけど泣いてもらったと言っていました。そのくらい小劇場は厳しく、俳優たちは大変です。

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