戦争を経験した世代が考えたこと
戦争を経験した世代の日本人の多くは、国土が焼け野原となって、何にもなくなったところから木の根をかじって飢えを凌ぎ、這い上がってきた人たちです。うちの母も戦前、裕福な家庭で育った深窓のお嬢様でしたが、戦争でいきなり何もかも失った人です。あまりに理不尽な環境の変化ですが、当時の人は大なり小なりそのような経験をして「人生は思い通りにならない」という洗礼を浴びたのです。
しかも自然災害のような天災でなく、人間が起こした戦争という、非常に不条理な事態によってそれが引き起こされた。誰かの指図で命の選択がなされ、何も悪いことをしていなくても「おまえは死んでいい」と人々は一方的にジャッジされてしまったのです。
何の倫理も意味をなさない、そんな現実に向き合うしかなかった人々は皆、「生きるって何なんだろう」という、宗教者か哲学者だけが深く追究するような根源的な問いを、おそらく一度は考えたことがあるのではないでしょうか。少なくとも女学生だった母は考えていたようです。