横のベテランがカーテンの隙間から見ている

救急病棟で3日ほど過ごしたあと、私は一般病棟に移された。最初に案内されたのは大部屋だった。同じ部屋にいたのは全員が高齢の女性で、症状は軽くないように見えた。特に私の横のベッドにいた女性は、具合が悪そうなのに詮索好きで、遠慮がなかった。まるでベテラン受刑者が収監されてきたばかりの新入りにサバイバルの方法を教え込み、自分の派閥に引き入れるかのように、彼女は私のベッドスペースを覆うカーテンの隙間から痩せ細った手首を遠慮なしに差し入れ、ぶしつけな視線をねじ込むようにして送ってきては、「年は?」、「どこ?(どの臓器が悪いの?)」、「誰?(主治医は誰?)」と矢継ぎ早に聞いてきた。

私は一気に不安になった。明るく清潔な救急病棟にいたときはあれだけ余裕で横になっていられたというのに、移動してきた大部屋のベッドは、カーテンに覆われ薄暗く、古ぼけていた。そのうえ、ベッド横に置かれたテレビ台との間は、30センチもないような狭さで、真横のベテランの息づかいが聞こえるほどだった。この環境にどれだけ滞在すればいいのか? まさかこのまま何週間もここに閉じ込められるのか? ふと気づくと、横のベテランがカーテンの隙間から落ちくぼんだ小さな目で私を見ている。涙が出てきた。自分の病状に対してではなく、このどうしようもない環境に。

この環境は無理かもしれない……と落ち込んでいると、てきぱきとしたショートカットの看護師さんが挨拶がてらやってきた。体調はいかがですか? と暗い表情の私に話しかけつつ、一冊のパンフレットを手渡してくれた。そこには「心不全手帳」と書かれていた。

心不全。

なんという重い言葉だろう。不思議なもので、弁膜症より、心不全という言葉のほうが、病人の心には鋭く突き刺さる。私のそんな気持ちを知ってか知らずか、看護師さんは私に向かってこう言った。