「心不全になってダメージを受けた心臓っていうのは、元の状態には二度と戻ることができないんですよ。だから、残った機能を大事に保って生きていかなくちゃならないんです。これ、読んでおいてくださいね! 気をつけることが書いてありますから~」

頭の上に、メガトン級の不安が落ちてきた。これ以上ないほどのショックだった。大声で泣きたくなった。これから私がいくらがんばっても、もう取り戻すことはできないのだ。私が失ってしまった心機能は、もう二度と戻ってこないと、確かに看護師さんはそう言った。私がのほほんと生きてきたから、無自覚に暮らしてきたから、私の心臓はとことん痛めつけられ、音を上げるまで酷使され、そして今、二度と復活できないほどに機能を失ってしまったのか。あまりの悲しさに何も出来ずにパンフレットを握りしめ、ベッドに座っていると、横のベテランがカーテンの隙間から、ふたたび声をかけてきた。看護師さんの話を盗み聞きしたのだろう。

「一度やるとやっかいやで、心不全ってのは」

その言葉に曖昧に答えた私は、心不全手帳をベッド脇のテレビ台の引き出しに押し込んで、ナースステーションに急いで向かった。いてもたってもいられなかった。逃げ出さなければならない。負けてはいられない。誰がなんと言おうと、それだけは絶対に、決して譲らないという強い気持ちで、受付に座っていた女性に声をかけた。

「すいません、個室に移りたいんです」

「個室だと、別途お部屋代がかかりますけれど……」

「かまいません。なるべく早く移りたいんです。電源をいくつか確保したいんですが、大丈夫ですか? パソコンを持ち込みたいんです。インターネットに接続することはできますよね?」

女性は驚いた表情をしていたが、わかりましたと言い、「手配しますね」と言ってくれた。

メラメラと闘志が湧いてくるのを感じながら、私はベテランが今か今かと私の帰りを待つ、暗い病室に戻った。

次回「7歳、子ども病棟で、私とふみちゃんの関係性が逆転した話」

村井さんの連載「更年期障害だと思ってたら重病だった話」一覧
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