書き出し、書き留めて主体的、客観的に見る
これまでお話ししてきたことを実行するために、介護手帳やノートをつけることをおすすめします。集めた情報、自分やほかの介護者の状況、できることリスト、介護スケジュールなどを一冊にまとめておけば、家族間で共有することもできる。
きょうだいや親族の争いを回避するためにも、書いて記録を残すことは重要。特にお金にまつわることはトラブルになりがちです。医療費や介護サービス代、交通費、食費など介護のために使った経費はそのつど記録しておきましょう。また、介護中の親の様子や自分の心情を書き留めておくと、親の死後、大切な思い出の品になります。
今になって振りかえってみると、私の場合、こうした知識や情報がなかったために、親の状態を受け入れることも、死を直視することを避けてゴールを見据えることもできず、ほぼ【混乱期】と【負担期】のまま最期を迎えてしまいました。
母が倒れたという知らせを受けたのは、子育てに忙しかった37歳のとき。親の介護なんて考えもしなかった頃です。はじめは主たる介護者は父で、私はサポートする形でした。ところが父もがんになり、私は同時に二人の介護をすることになったのです。この時期が一番過酷でした。母のおむつを取り換え、食事をつくり、世話に追われて自分の時間など皆無。立ったまま食事をするのが当たり前の日々でした。
父が先に逝き、その3ヵ月後に母も亡くなって、5年間に及ぶ私の介護は終わりました。そのあとに残ったのは大きな後悔。母の頭がしっかりしているうちに本音を聞いておけばよかった、介護中に喧嘩した父に謝りたかった、無理にあんなことをさせなければよかった、最後に親子でいい時間をすごしたかった……挙げたらきりがないほどです。
介護は当事者にならないと理解できないことが多いかもしれません。ですが、予備知識と心構えがあれば、いざその日が訪れたときの対応も違ってくるはず。私たちのNPOのスタッフの一人は、先日お母さんが倒れ、最初は混乱したそうです。でもロードマップなどの知識があったおかげで、今はこういう状態なのだな、と客観的に見ることができたと話していました。
みなさんも、介護が始まったら、自分を見失わず、主体的に取り組んでほしいと思います。そして、親との限られた大切な時間を有意義にすごしてください。
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