その様子を見て、ああ、これは本気で言っているのだとわかったので、「じゃあ、失礼します」って、とりあえず車に乗って家を出たんです。あまりにショックで、胸がドキドキしましたね。そのまま車を走らせて、近所のスーパーマーケットの駐車場に車を停めたまま、2時間くらいひとりで悶々と考えこんでしまいました。

そのときすでに、「もしかして認知症かも……」という不安を感じていたんです。というのも、彼の母も認知症を患っていたので、私も認知症に関する本を何冊も読んでいました。その中に書いてあった「夕方になると様子がおかしくなる」という症状とピッタリだったのです。

その日は、夜の8時頃、恐る恐る家に帰ったんですけど、「ママ、どこに行ってたの? 心配してたんだよ」って、いつも通りの夫に戻っていた。通いのお手伝いさんと間違えて、私に帰れと言ったことすら覚えていない。

 

記憶障害、暴言、徘徊認知症の夫を介護

その日から、夕暮れどきになると私が自分の妻だということがわからなくなり、そのたびに、私は夕食を食卓の上に置いて家を出て、外で3~4時間ほど時間をつぶしてから再び家に戻るという毎日に。診察していただいた病院でも、やはり「遺伝性のアルツハイマー型認知症」と告げられました。

その程度の記憶障害だけなら、私ひとりの力でもなんとか対応できたのですが、そのうち、彼の好きな料理を並べても、「俺はこんなものは頼んでない!」と暴言を吐き、食卓をバーッとひっくり返すようなことも増えてしまって。

徘徊も始まりました。最初は、朝の5時半に警察から「ちょっと、ご主人が……」と、電話があって。ビックリ仰天してベッドを見たら、隣に寝ているはずの夫がいない! そのときは、うちの裏にあるお宅の敷地に勝手に入り込み、お庭を眺めていただけだったからまだよかったのですが、私が仕事で家を空けているときに、「交差点で、ご主人が工事現場の人と揉めています」なんていう電話が警察からちょくちょくかかるようになってきて。