あるときは、どこかのレストランに書類を山ほど抱えて入っていき、「これを読んでおくように!」と、お店の人たちみんなに配りだしたとか。今でこそ笑い話ですけれど、当時はそんな連絡があるたびに真っ青になり、すっかり顔なじみになった交番のお巡りさんのところに謝りに行ったこともありました。

そんな行動をとってしまうのは病気のせい。決して彼が悪いわけじゃない。それは重々承知していたものの、そんなこんなの連続で、私ひとりで世話をするにはやっぱり限界がある。長時間一緒にいるとこちらもだんだん疲れてくるし、私がいない間に夫がひとりで家を出て迷子になったり、万が一、誰かとケンカにでもなったりしたら一大事です。

バスに乗ったはいいけれど、料金の払い方がわからずに、運転手さんに大変な迷惑をかけてしまったこともありました。それでプロの手を借りようと、介護施設のデイサービスに通ってもらうことにしたのです。

 

ハッピーに過ごせる介護施設を探して

そもそも、夫は見知らぬ他人に世話を焼かれるのが好きじゃないし、おじいちゃん扱いされるなんてもってのほか。でも、若くてきれいな女性のスタッフがいる介護施設ならご機嫌なんですよ。お化粧をした女性スタッフが、「大伴社長、いらっしゃい!」なんて明るく迎えてくれると、「よう、君、元気かい?」なんて、自分から靴を脱いで、どんどん上がって行っちゃう(笑)。

彼としては会社に出勤しているような心境で、うれしかったんでしょうね。ケアマネジャーさんに相談しながら、あちこち見学して回り、そんな夫好みの介護施設をいくつか探し出しました。

最期を看取った横浜の施設も、大のお気に入りでした。夫がデイサービスで訪れると、「大伴のパパ、いらっしゃい」って、テレビの前のテーブルに週刊誌や新聞をいっぱい載せて、まるで会社の応接室のような雰囲気で迎えてくれる。ここなら彼もハッピーに過ごせるだろう。そう考えて、この施設にお庭のついた部屋を借り、そこで暮らしてもらうことに決めました。