自由を求める者たちの物語はまだまだ続く

中国政府との「一国二制度」のもとで長らく自治が認められていた香港の社会に、暗雲が立ち込めて久しい。

学生が主導した2014年の民主化デモ──いわゆる「雨傘運動」も、19年から20年にかけて「香港衆志(デモシスト)」という政党組織が中心となりさらに激化した民主化運動も、香港の政治的自由を守ることはできなかった。中国の全国人民代表大会が国家安全法制を採択したのを受け、「香港衆志」は解散した。

本書で綴られるのは一連の民主化運動でつねに中心にいた、ジョシュア・ウォン(黄之鋒)という青年の物語だ。「雨傘運動」以来の同志であるアグネス・チョウ(周庭)とともに、民主活動家としてのウォンの名は日本でもよく知られている。共著者のジェイソン・Y・ゴーはノンフィクション作家で、ウォンの掲げる理念を報道し続けてきた人物だという。

1996年に生まれ、日本のマンガやアニメが大好きだったオタク(毒男)少年は、なぜ香港の民主化運動の中心を担うに至ったのか。第1幕「創世記」では、政治に目覚めるきっかけとなった友人との出会いから「香港衆志」の設立までが綴られる。第2幕「投獄」は少年刑務所への入獄体験手記で、本書の中核をなす部分だ。第3幕「世界の民主主義に対する脅威」では、現下の政治情勢に対する厳しい現状認識が綴られる。

だが、香港の政治的自由を求める若い世代はまだ完全に絶望したわけではない。自分たちの戦いを映画『スター・ウォーズ』に喩え、2017年以後の厳しい状況はまるで「エピソード5/帝国の逆襲」だとウォンはいう。自由を求める者たちの物語はまだまだ続くのであり、そこに絶望の色は少しも見て取れない。