Q. ワクチンの開発が進んでいますが、いつ頃その効果が現れるでしょうか?

予防接種には不確定要素がたくさんあって、現時点でどこまでうまくいくのかわかりません。ですから、そのゲームチェンジャーに期待したい逸る気持ちは抱いてしまいますが、冷静にこれから上がってくる効果やその持続、副反応に関するデータを見ていく必要があります。

アメリカの新規開発されたmRNAワクチンなどの情報や研究成果を見ていると一人あたりへの予防効果は高いということはわかっています。思っていた以上にいいです。今まで不活化ワクチンとかで、コロナウイルスに関しては動物のワクチンがありました。いわゆる何種混合というもので、犬の赤ちゃんが0歳の頃に打つワクチンのなかにコロナウイルスワクチンが入っています。

だから生ワクチンも不活化ワクチンもコロナウイルス一般について世界は経験があるんですけれど、パーフェクトじゃないだろうと考えられていました。

それがmRNAワクチンの開発が進んでいてその第三相までの試験結果では相当効いていることになります(ただし、それは免疫反応が惹起されることを意味しているので副反応も起こりやすいことを意味する可能性があります)。

人口レベルでの効果ということでお話しします。この冬に接種されるのはごく一部で、冬を終えたあたりから広い範囲でハイリスク者の接種が始まると考えています。接種の優先度については、分科会が「医療従事者と高齢者から」と提言しました。

ここで出てくるひとつめのハードルは副反応問題です。これだけの数の人口が一度に接種をするワクチンはなかなかありません。そこまでの数の人が接種をすると、いくら安全性に気を遣っていても、絶対なにか起こると思ってやるしかありません。その事象には軽いものから重いものまであると思います。

国立感染症研究所の研究者を含む厚生労働省の研究班計画では「副反応データベース」というのを準備して、なんらかの有害事象があったときデータを集めてそれぞれの予防接種歴と過去のほかの予防接種歴とを比較して因果関係があるのかどうかを暫定でもいいからすぐ突き止めるような手段を作ろうとしています。それがうまくいくかどうかという問題。

そして、たとえば高齢者で亡くなる方が出た場合に、世論が大きく反応して、それによって政府が接種の勧奨をやめてしまうこともありえます。そうならないような分析や科学的助言が行われることによって、科学がふんばれるか。

次の問題というのは、集団免疫を作るためには人口の何十パーセントが接種しないと集団として防がれないということがあるのですが、たとえばこのあと感染が収まってきたような場合に、それでも多くの人が接種をしようと考えるかどうかということですね。重症化や死亡のリスクが高い高齢者でさえ、副反応の話が出回ると躊躇するということが有り得ますので。

それが顕著だろうというのは、若者の問題です。高齢者にくらべてリスクが低いと言われている20代、30代、40代がどれくらい接種するか。自身へのベネフィットは少ないが、社会全体のためにも接種すると良い、というのは知っていて損はないのだと思いますし、それを政治家が呼びかけられるかどうか。そういった要素を踏まえて、社会全体でどのくらい接種が進むかによって、集団レベルの効果が大きく変わってくると考えています。

 

Q. 著書『理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ!』に込めたメッセージとは

流行が長く続いていますが、おそらくもう、中間地点は越えていると思っています(野球でいえば、少なくとも「3回の表」にはなっていると思います)。今は多様な意見が出ており、真逆の政策を強く主張し合うようなことが起こる可能性もある状況で、流行が拡大すると混沌を極めることになります。

また、長引く自粛で「コロナ疲れ」を感じておられる方も多いかもしれません。でも、ここで諦めてしまわず、皆であともうひと踏ん張りすれば、ゴールが見えてくるはずです。

「第1波」の始まりのとき、どのようなコンセンサスで流行対策が行われてきたのか、専門家としての本音を書きました。感染症の専門家が命がけで何を考えて仕事をしてきたのか、多くの方と共有できたらと願っています。

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