他人の風を入れることが大事

坂口 『婦人公論』の読者で自殺したい人も、迷わず僕に電話をしてほしい。今は介護で困っている人がむっちゃ多いんですよね。

斎藤 そういう人には、どんな応対をするんですか。

坂口 たとえば化粧して、一番いい下着を着てもらう。それで電話で遠隔操作してデパートに行き、気に入った布を探してもらうんです。それから僕が見つけた可愛いコートを簡単に作れるサイトのリンクを送って、その人に似合うコートを自分で作ってもらうとか。

斎藤 それも恭平さんのいう「手首から先の運動」ですね。

坂口 はい。五感を使うのも大事だから、香水なんかもよく買いに行きますよ。デパートに行って匂いをチェックしてもらいながら、電話で「どれが好きですか」って。

斎藤 お話を聞いていると、催眠療法で知られる天才的な精神療法家のミルトン・エリクソンという人を思い出します。彼は「治療はオーダーメイドだ」と言っていました。一人一人違うことをすると。そもそも、自分の状況についてぐるぐると内省的に考える「反復」が、うつを悪化させます。いかに反復をやめるかが大事なのですが、そのために有効なのが、まさに恭平さんがやっている、「人とつながる」ことなのです。つながっている間は強制的に気が逸らされますから。

坂口 要は他人の風を入れることが大事なんです。連絡を取れる人がいれば取ったほうがいいし、いなければ僕に電話してほしい。

斎藤 お話を聞いたり、SNSでの活動を見ていると、恭平さんだからこそできるというところはたくさんある。でも同時に、自分も真似ができそうに思えてくる部分もあって、そこが面白いですね。

坂口 僕のしていることに一般性があり、環先生がそこに法則を見出してくださるなら、いつでも僕は実験台になります。

斎藤 一般性はじゅうぶんあると思いますよ。

坂口 「いのっちの電話」では、当てずっぽうをやったことは一度もないつもりです。これが何なのか、自分自身もまだわかっていない。でも僕が天才だからとか、共感性が高いからということじゃない。これは経験と技術なんです。そういう意味ではピアニストとかエンジニア、大工さんに近い。

斎藤 つながらなかった電話を折り返すとか、共感性に頼らない支援、支援を楽しむ方法論など、けっこう一般化、法則化ができる部分はあると思います。支援の現場では往々にして深刻になりすぎ、そのムードが二次受傷を生んでいる場合もある。そこに風穴を開けることには意義があります。もし恭平さんみたいな人が10人出てきたら、日本の自殺対策の状況はずいぶん違ってくるでしょう。

坂口 活動のベースはジョイ、喜びと幸福です。だから幸福とは何か、僕なりの幸福論をちゃんと書きたいと思っているところです。