斎藤 しかし重い話ばかり聞いていると、二次受傷といって相手の心の傷がこちらにも移ってくる。そのケアが必要というのが臨床の常識です。一人でこれだけ多くの相談をどうやって潰れずにこなしていけるのか、本当に不思議で。
坂口 どうやってと説明するのは難しいですが、僕が「いのっちの電話」に喜びを見出しているからかもしれません。これは仕事でも、人助けという感覚でもない。その人の話し相手として存在できている喜び、ぐらいの感じですかね。とにかくその人が一番楽しいと思うことを話すようにしています。
斎藤 たとえば、どんな?
坂口 この前、末期がんのおばあちゃんから電話が来て、寂しくてしょうがないと。じゃあ今すぐ叶えてあげるから、何か願いを教えてと訊いたら、「星に願いを」を歌ってくれというのです。その歌は知らないけど、即興アカペラで「星に願いを~、夢見る虫は~、葉の上で~まどろんでいる~故郷の夢~」という感じで(笑)。おばあちゃん、泣いていました。だから単純に、最高の贅沢を味わってもらっているつもりなんですよ、僕は芸人だから。
斎藤 相談と考えると重いけれど、実は創造行為だと。
坂口 エンタテインメントですね。エンタメという言葉は軽く使われがちですが、語源はラテン語で「帰りたくなくなるほど歓待する」という意味。それを提供することを心掛けています。みんなすぐケアとかヘルプの状態を考えるけど、僕の行為はどちらかというとディズニーランド寄りなんです。
斎藤 ああ、なるほど。