世間的評価が親を黙らせた

大久保 才能があったから小説を書けたし、賞もとれたんだと思うけど、親の立場からすると、子どもがこういう作品を書いていたら、ちょっと心配かも。

遠野 父親(ロックバンド「BUCK-TICK」のボーカル櫻井敦司さんと、この対談収録後に公表)にも「ショックだった」と言われました。

大久保 そうなんだ。でも、母親のほうがセックス描写とか暴力シーンに抵抗がありそうだけど。

遠野 母親は感想を言ってくれなかったです。だから、父親以上にショックを受けているのかもしれません。

大久保 でも芥川賞までとったら、「自分の理解が及ばないところで評価を得てるんだろうな」って、私が親だったらそういう納得の仕方をするかな。うちの親も、「大学まで行かせたのに、人前で容姿をいじられる仕事なんかして」と思っていただろうけど、近所の人とかに「佳代ちゃん、またテレビに出てたね」と言ってもらえるようになったことで、納得したんでしょうね。世間的評価が親を黙らせた。(笑)

遠野 なるほど。

大久保 芥川賞をとったことに関しては、どんな反応でした?

遠野 「おめでとう」と言ってくれましたし、父親は立派な箱に入った万年筆をくれました。ただ私は、万年筆を使ったことがなくて。

大久保 どうしましょう。

遠野 使い方がわからないので、箱に入れたまま部屋の隅においています。

大久保 3作目はもう書いているんですか?

遠野 書き始めていますが、長篇なのでまだ時間がかかりそうです。いつか、『ハリー・ポッター』みたいな厚さの本を書きたいと思っていて。

大久保 分厚いな……。なるべく早めに出してもらえる? 気力と視力が追いつかなくなるから。3作目はどういう内容なんですか?

遠野 超能力のレッスンを受けるけど、なかなか思うように超能力が身につかない話です。

大久保 その人は超能力が欲しかったんですよね?

遠野 はい。周りの人も「超能力を身につけろ」って圧力をかけてくるっていう。

大久保 そんな現場ある?(笑)しかもその話が『破局』の2倍くらいの長さになるんだよね……。

遠野 そうです。

大久保 でも嬉しいな、新作を楽しみに待つ作家さんが増えて。

遠野 ただ、作家で食べていくのは大変だろうなと想像しています。

大久保 芥川賞をとっても?

遠野 先はわからないので。毎年ヒットを出すとか、人気のシリーズを書くなどしないと厳しいと思います。

大久保 作家って大変なんだね。じゃあ、困ったら言ってよ。

遠野 本当ですか? 言っていいんですか?

大久保 言っていいよ。せっかくご縁ができたわけだし。

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